ガエル記

散策

『いわさきちひろ~27歳の旅立ち~』海南友子

私はつい先日までの長い間いわさきちひろ氏のあまりにも綺麗な子どもの絵に疑問を持っていて好きではありませんでした。

純真で穢れなく激しい感情を出さない無表情なこどもだけがちひろ氏の理想として選択されているのかと感じていたのでした。

そしてこれも最近まで読んでいなかった黒柳徹子氏の大ベストセラー『窓際のトットちゃん』をやっと読んで感動したのですがその表紙と挿絵がいわさきちひろ氏なのがトットちゃんのイメージとかけ離れていると不満でした。しかもいわさきちひろ氏の絵を選んだのは徹子さん自身とも聞いてより疑問を持ってしまったのです。それほど私はちひろ氏の可愛らしいだけの(と思えた)子どもの絵に反感を持っていたのです。

しばらくして私は戦争中に少女時代を送った女性たちの随筆本を読みその中に偶然黒柳徹子氏の文章があり素晴らしい内容だったのですがそこに「いわさきちひろさんも若い頃に戦争中中国大陸に渡り大変な思いをされ苦しまれた」ことが書かれてあって初めてはっとしたのでした。

なぜいわさきちひろ氏が可愛いだけの子どもの絵ばかりを描いているのか、私は単純に潔癖症的なものを考えていたのですがそうではないのではなかったのか。

戦争で苦しむのはいつも子どもたちであります。

ガンダム』を観てもそれは解るはずです。

いわさきちひろさんは悲しむ子どもたちを絶対に見たくなかったんだとその時初めて判ったような気がしたのです。

 

このドキュメンタリーは私がやっと至った考えを裏打ちするような内容でした。

しかもベトナム戦争時に「苦しみ悲しむ子どもたちを少しでも早く助けてあげたい」と絵を描くエピソードが入っていました。

その中の説明で心に残ったのは厳しい眼差しの母親とその胸に抱かれてまるで恐怖を感じていない安らぎの表情をしているこどもを描いた一枚の絵です。

ここでもちひろさんは子どもが苦しむ表情は描きたくなかったのです。

 

もしかしたらあるいは何も知らないままこの絵を見たらまたもやこの子どもの表情に疑問と反感を持っただけだったのかもしれません。

 

とはいえ一転していわさきちひろ絵の信奉者になる、とまでは言えないのですがなぜこんな絵を描くのか、と考えなければその真髄はわからないのだと気づかされたという話です。