横山『三国志』きちんと読むのは初めてです。
今25巻まで読んでいるのですが(全30巻のほう)今回の読書でこれまでの価値観がひっくり返る発見をしたのでまずそれを書いておきます。
『三国志』と『銀河英雄伝説』のネタバレになりますのでご注意を。
ってここで『銀英伝』出てくるだけでお見通しではあるだろうけど。
『銀河英雄伝説』アニメも含めて大好きな作品です。が、ヤン・ウェンリーは文句なしに好きなのですがもう一人の主人公ともいえるラインハルトとその親友キルヒアイスの関係がどうにも受け入れ難く気持ち悪かったというのが本音でした。
そもそもキルヒアイスは子供時代に出会っていきなり「ラインハルトこそ宇宙を手に入れる方だ」的ないわば天啓を受けて「ラインハルト様」と言い出すではないですか。ふたりにはなんのしがらみもないし親友というだけでいいのに「なにこの卑屈な態度」というのが今の今まで疑問&不気味だったのですが横山『三国志』でいっぺんに氷解してしまったのでした。
ラインハルトとキルヒアイスの関係は劉備と関羽&張飛だったのですね。
ラインハルトはそのまま劉備でした。貴族であり堂々とした気品を持ち未来を見据え前進していく。ラインハルトには姉で劉備は母という女性の保護者がいます。(劉備の母は側室にはならないのでご安心を)
キルヒアイスは関羽&張飛とは性格は違えどふたりに値するほどの知勇があり頼りがいがあるではないですか。
劉備と関羽・張飛もまたなんのしがらみもなく同等の立場で出会っただけです。なのに関羽・張飛は劉備を見てすぐに「今やっと仕えるべき人物を見いだした」と喜びます。
これに対し「わたしはまだなにひとつやったことない若者です」と辞退する劉備に「わしらが心で劉備殿を主と決めている気持ちは変わらないがここで義兄弟の盃をくみかわそう」と説き伏せるのです。
そして名場面「桃園の誓い」になるわけです。
不思議なもので『銀英伝』ではあれほど不思議に思えたにもかかわらず歴史小説『三国志』でいきなり「あなたにお仕えします」はまったく不思議にならない不思議。
ともあれこれまで納得できなかったラインハルトへのキルヒアイスの思慕が関羽&張飛だったと解っておおいに納得した次第でした。
そもそも作者である田中芳樹氏は中国歴史ものの大家であるしすぐ気づいて良さそうなものでしたが『三国志』をきちんと読むまで気づきませんでした。
しかもこれまで「ラインハルトとキルヒアイスって劉備と関羽&張飛よね」という解釈を見たこと聞いたことがなかったのですがこれはファンの間では当たり前すぎて問題でもなかったってことですか?
そしてラインハルトの前にはオーベルシュタインが登場します。勿論彼が軍師・孔明の役割ですね。人格がかなりひどくなってますがw
しかし一時的にラインハルトがキルヒアイスをさしおいて彼に傾倒するところなど劉備と孔明の出会いを彷彿とさせます。
さらにキルヒアイスが早く死んでしまうのは極端ですがやはり先に死んだ関羽&張飛とかさなりますし。
ラインハルトに子供ができるのも彼が劉備の影響を受けていたからだったのかと納得したりしました。
こうして考えていって面白いのは中国人の流れであるヤン・ウェンリーが非常に西洋人的なのに思いきりゲルマン人の流れであるラインハルトとキルヒアイスが『三国志』的な結束をしていて皇帝やら主従やらに恍惚としているところですね。
先日「中国政府が中国人は西洋人ではない」的な発言をして話題となっていましたが『銀英伝』ではまさに真逆の結果になっています。これは田中氏があえて狙ったのか。
そして『銀英伝』が中国で非常に人気なのはこれまで主人公がヤン・ウェンリーだったからとだけ思っていましたが敵側のラインハルトとキルヒアイスがまさに『三国志』だったからというのがより大きいのではないでしょうか。
ほんとうに横山『三国志』を読んでよかった。
読まなければ『銀英伝』の面白さのさらに深い部分を気づけなかった。
これからはラインハルト・キルヒアイスが大好きになりそうです。