中を読まずに表紙だけ見てしまったら誰?ってなりますな。
最初孔明なのかと思っていましたが、劉備玄徳でした~w表紙絵5・5回目で張飛と並びました。
後で知ったのですがこの場面は有名なのですね。
ネタバレしますのでご注意を。
時は流れた
というナレーションから入ります。
前回で書いたようにやはり19巻目までが一幕という括りなのではないでしょうか。20巻目から第二幕が始まります。
若かった主人公や主要人物が壮年期に入っていきます。
曹操は着々と地位を固めています。
その基盤となったのは北方の雄・袁紹を「官渡の戦い」で破ったからである、と書かれています。
wikiで見るとこの「官渡の戦い」は『三国志』の中で「赤壁の戦い」と並ぶ重要な戦い、とされているのにも関わらず横山『三国志』では描かれていないのは謎でもあります。
が一度読み通したものとしてはまたここで同じペースで進むよりこのほうが良かったのではと思うのです。
私は横山『三国志』は劉備玄徳を中心にして彼を愛したというと語弊があるかもですが彼に惚れ込んだというか信奉した男たちのドラマと受け取りました。
『三国志』を学ランものにした『あばれ天童』を読むと明確にわかる気がします。あれは少年たちが天童の男気に触れて新しい人生を見つけていく作品でしたね。
横山『三国志』は三幕で成り立っていると感じました。
第一幕は玄徳こそ国を治めるに足る人物だと信頼して関羽・張飛が彼と義兄弟の契りを結びあてどなく青春の日々を彷徨う物語。
第二幕はこれからですがそんな三人が諸葛亮という天才軍師を得て基盤を作り上げていく物語。
第三幕は劉備だけでなく主要な輝かしい人物が次々と失われていく中で諸葛亮が劉備玄徳を我が君と心の中に秘めながら孤軍奮闘していく物語です。
なのでこの一幕と二幕の間にある「官渡の戦い」は確かに余分かもしれません。
ここを抜くことになったのはある意味横山『三国志』の持つ意味であるようにも思えます。これは私がもともとの『三国志演義』を読んでいないからとも言えますが。
諸葛亮はもともと自由気ままに生活することを望んでいたはずなのに玄徳の人徳に共鳴して以来その人生を犠牲にしていきます。優秀な彼が我が君のために全知全能を傾けましたが寿命には勝てませんと悔やむ場面は思い出しても泣けてきます。
関羽・張飛・諸葛亮という優れた男たちをこれほど信奉させ動かした劉備玄徳という人物の魅力はなんなのでしょうか。
そんなことを考えながらも読み進めていきたいと思います。
さてさてそんなこんなで巨大な権力を我がものにした曹操が「厄介な人物」と思うふたりがいた。
国力も豊かな呉の国王・孫権。
王じゃないのん。
壮年なのにい?
なかなか食えない人物である。
場面は劉表と劉備が「袁紹はなぜ官渡で敗戦したのだろうか」と語り合っているところから始まる。背中越しで庭を見るという構図、うまいなあ。
劉表は玄徳をとても信頼している様子だ。
反乱の鎮圧を玄徳は申し出る。玄徳は関羽・張飛・趙雲を引き連れあっという間に平らげてしまった。
劉表はますます玄徳に傾倒していく。その様子を快く思わないのが蔡瑁だった。蔡瑁の妹は劉表の妻である。それを利用して劉表の玄徳びいきを牽制するのだった。
ところで玄徳は反乱鎮圧の際趙雲から名馬を見つけました、と贈られた「的盧」という馬に乗るようになっていた。劉表がこの馬を見て一度欲しがり玄徳からもらい受けたのに反してきたという一件が起きる。
その後、伊籍と言う人物が「その馬は凶馬だと言われ劉表はあなたに返したのです。乗るのは止めた方が良い」と進言する。しかし玄徳はそのようなことはあまり信じませぬ、と言ってやんわりと断りそのまま乗り続けた。
そして劉表から勧められた新野の城へと移り住んだのだ。
新野は一地方の田舎城である。
がここで玄徳夫人が男子を産むという吉事があった。夫人が妊娠中北斗星をのんだ夢を見たというのでその子は「阿斗」と名づけられた。
それからも劉表の玄徳への信頼は続いていた。ある日劉表は跡継ぎ問題を玄徳に相談した。長男・劉琦は頭は良いが体が弱いので今の妻の子である次男を跡継ぎにすべきという声があり迷っていると。
玄徳は躊躇うことなく「家は長男が継ぐもの」と答える。劉表は「そのとおりだった」と笑う。
しかしこれを聞いていた妻は兄の蔡瑁に告げふたりは策略を講じる。
伊籍は「玄徳暗殺」の話を聞き急ぎ玄徳に手紙で知らせる。
玄徳はすぐに家来と帰城した。
玄徳、何度死んでいたかわかりませんね。いつも誰か玄徳を信奉していた人が彼の命を救うのです。
蔡瑁は玄徳が謀反を詩にして壁に書き記している、と劉表に嘘の報告をする。
劉表はこれを見て一度は怒るが「よく考えたら玄徳が詩を書いているのを見たことがない。これはわしと玄徳の中を裂くために誰かが書いたのかもしれぬ。何も見なかったことにしよう」と言って壁の詩をを削り取ってしまった。
劉表、玄徳好きなんだ。
蔡瑁はあきらめず玄徳暗殺を再び計略する。
(何なのこの人かっこわるいわぷぷぷ)
蔡瑁は襄陽城で豊作の慰労会を催しませんかと劉表に提案する。いったいなにいったいなに。
劉表は賛成するが体調が悪いのでおまえに任せると寝込んでいる。蔡瑁はでは玄徳様に主人役をお願いしましょう、という。
大宴会の便りが玄徳の元へ届く。
張飛は喜んで勧めるが玄徳はこの時に蔡瑁の企てを話す。一転怒る張飛。
趙雲は私が殿の警護に当たりましょうと言って玄徳を安心させた。
趙雲こわい。
これではとても玄徳暗殺できないので蔡瑁はまたしても策謀して趙雲を酒の席へと引き離す。
ここでまたもや伊籍が玄徳の側に寄って酒を注ぐふりをして事の次第をささやく「西門は手薄だ。早くお逃げなされ」
玄徳飲んだふりをして「ふーううまい酒だ」そして厠へ行くふりをして脱兎のごとく厩へ急ぎ的盧にまたがった。
脱兎のような玄徳が可愛いのだ。
早い。
報告を受け蔡瑁が追いかける。玄徳の前に檀溪が広がった。
この檀溪があるからこそ西門には兵が置かれなかったのだ。
この後の描写はあまりに素晴らしく是非お読みください。
蔡瑁はこの様子を見て「何を恐れてそのように逃げるのか」と問う。
玄徳は「そのほうこそなぜこの玄徳を害せんとするのか」と答える。
的盧に乗って檀溪を跳び九死に一生を得た玄徳だがふと虚しさに襲われる。
こんなところで命を落としてしまったら何の意味があるのか。
この後、玄徳はこれまでの自分に足りなかったものを求めるようになる。
それが叡智なのだろう。
これまでの玄徳はまっすぐ生きてきたとはいえあまりにも無謀すぎたと思ったのではないだろうか。
玄徳は不思議な童子によって水鏡先生と呼ばれる人物に引き合わせられる。
水鏡先生は田舎家屋ながら書物に溢れた屋敷に住んでいた。
水鏡先生は玄徳が小人の謀略に追われ疲れ果てていることに同情を寄せる。玄徳は恥じ入った。「時の運はいかんともしがたい」と。
しかし水鏡先生は「運命のせいではなくあなたの周りに良い人物がいないから機会を逃すのです」と答える。これには玄徳言葉を荒げる。「関羽・張飛・趙雲あり。決して良い人物がいないということはない」と。
が水鏡先生は「君臣の情においては美しいが立派な君主というのはそれだけでは駄目でしょう」
ふむふむ。天童くんの姿とも重なりますね。
水鏡先生は冷静に「彼らには激動する世の中に臨機応変に立ち向かえる知恵はない」と明確に言われ玄徳は「おっしゃる通りかもしれませぬ」と首を垂れる。
その晩玄徳は眠れない。新しい展望が開けたのだ。
この巻まだ続きますw