ガエル記

散策

『時の行者』横山光輝 その4 最終巻まで

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

「吉宗の倹約政治の巻」

八代将軍政宗は度重なる火事の後始末に追われていた。

それでなくとも吉宗が将軍の座に就いた時幕府の財政は借金だらけであったという。

吉宗は木綿の服を着、赤胴と鉄だけの刀を持ち食事も質素にして自らも倹約をし、周りの者にもそれを課した。そして全国に徹底した倹約政策を施していった。

 

横山先生のこうした働く人たちの絵、いつ見ても気持ちよい。ほんとに上手い。

楽しい。

 

そして行者はここで落ちぶれた紀伊国屋文左衛門に再会する。
彼はすっかり良い人に変わってしまっていた。

行者は文左衛門から「質の悪い浮浪者たちが火付をして盗み働こうと相談している」と聞きふたりでそれを阻止するために立ち向かう。

だが悪人たちを差し出して金をもらうことを文左衛門は「かつての名に傷がつく」と言って拒否したので行者は岡っ引きの権三に手柄を譲る。

権三はそれまであまり良い噂のない人間だったが大岡越前に諭されてひれ伏した。良い人に変われると良いね。

 

吉宗の話だったのでついついよしながふみ『大奥』をひっぱり出して読んでしまった。吉宗の話好きなのですよ。

 

天一坊事件の巻」

吉宗公の御落胤を語る源氏天一はこれから将軍と親子の対面をして大名になる予定となているがそのための儀式に金がかかるため家来になる者から寄付三百両を集めている。

といういかにも詐欺の手段の話。

行者が出会った浪人・助川は道場やぶりで小金を稼いでその資金を貯め仕官するつもりであった。

これが後世に伝えられる「天一坊事件」と思い出した行者は助川に話すがすぐには納得してもらえない。

が、稲生下野守がこの事件を解決した。

稲生は大岡越前のライバルと言われた男なのだがそれがなぜか後世大岡越前が裁いた事件として記録されている。

 

「吉宗と宗春の巻」

吉宗の倹約政策はますます厳しくなっていった。それに抗うのが尾張徳川宗春だった。芝居小屋や遊び場所を許し祭礼もはでにした。各地から商人たちが集まり産業が活発となり街に活気がみなぎった。

徳川御三家のひとつである宗春の台頭を幕府は苦々しく見つめていた。

ここにそれぞれの忍者たちが暗躍する。

 

その忍者たちの攻防に行者は巻き込まれてしまう。

宗春が連絡を取っていた大名の名前が記された紙きれを行者は手にすることになる。

それを見たのが尾張衆伊部早苗というくのいちだった。行者はその紙きれを早苗に渡す。早苗はその代わりに行者を守ると約束した。

が、ことがばれることを案じた尾張藩の家臣は行者を暗殺するよう命じたのだった。

 

珍しく「続く」になっています。

 

後編

早苗は約束どおり自分の命に代えて行者を守り抜くのです。

行者は「無理はするなよ。ぼくのことはなにも心配いらないんだから」と言うのですが(事実そうなのですが)早苗は行者の姿になって彼の代わりに殺されてしまうのです。

行者は「それぞれの倹約政策がありどちらも間違ってはいないのだが威信にかかわるのが問題なんだ」と語ります。

吉宗は自分の政策に反対する宗春に隠居を命じ倹約政策をおしすすめていったのである。

 

「江戸の大嵐の巻」

吉宗の後継者となる長男家重の話からはじまる。

家重は無精者で酒浸りの生活を続けている人物でしかも言語障害があり小姓役の大岡忠光だけがその言葉を理解できた。

次男の家武を将軍にすべきという動きもあったが徳川家は三代将軍の跡継ぎ争いで長男が家を継ぐべきと家康が決めて以来生まれた順番で跡継ぎを決定することになっていたのだ。

 

一方行者は江戸が大嵐に襲われるので人々に前もって非難するよう説き伏せていた。とはいえ誰も信じようとはしない。

が、その姿をお忍びで歩いていた家重が見て興味を持ってしまう。

行者は彼らに伝えてもらった方が効果的だと思い彼らの屋敷へと従っていった。

 

そのことを将軍吉宗も耳にして自ら確かめ行者の予言通り大嵐が来たことから行者を息子の相談役にしたいと考える。

しかし行者は「それより今災害で困っている人々を助けるべきです」と立ち去る。

案の定水害で多くの人々が往生していたのだった。

 

人々を安全な場所に誘導した行者はここで一人の男から「さっきもあなたと同じような姿をした女の子が我々を助けてくれました」と聞きずっと探していた理沙(ここで漢字表記になる)だとわかって居場所を尋ねた。

自分と同じように法力(?)で人々を助けている理沙を見つけた行者は「理沙」と呼びかけた。理沙も「淳」と呼びここで行者の名前がわかる。

淳は理沙に「もう僕たちの世界に帰ろう」というのだが理沙は躊躇う。理沙はどこかで歴史の流れを変えようとしてきたのだ。それは淳も同じだったが結果はいつも歴史のとおりになってしまうのだった。

理沙は「わたしはあと一時間でもとの世界に引き戻される。その時間にせいいっぱい困っている人を助けたい」と言い淳も同意した。

 

「宝暦の百姓一揆の巻」

「元の世界」から始まる。

砂漠の中の建物にふたりは住んでいる。自動ミサイル戦車の到来でふたりは起こされ敵機を攻撃した。

理沙は「見渡す限りの砂、戦争、こんな世界はまっぴらだわ」と嘆く。「わたしもう一度旅行をして歴史を変えるわ」と言い出す。

淳も「それならぼくもついていこう」といい「今度の旅行で何も変えることができなかったらここに住んでぼくたちの手で未来を変えると約束してほしい」と伝えた。

理沙はこれに同意して二人は一緒に過去へ飛ぶ。

到着した場所は1754年久留米の竹野郡松門寺にはじまった百姓一揆の時代だった。

ふたりは一揆が起きないように働きかけるが目の前で一揆が始まってしまう。

それでも理沙はあきらめきれず一揆を止めようとする武士たちを止めようとするが無駄だった。

百姓一揆はたちまちに膨れ上がり十万を越える勢いとなっていく。

原因となった人別出銀の布令は取り消されたが首謀者二十五人が死刑となった。

 

淳は理沙に言う。「ぼくたちの力だけで過去を変えることは不可能なんだよ。でも未来は変えることができる。今まで見てきたこと学んだことを参考に住みよい世界を創り出すことはできる」

 

その後、時の行者が過去の世界に姿を見せることはなくなった。

よりよい未来世界をつくるため努力しているのだろう。

 

完了。

 

ふー面白かったです。

言えばやみくもに戻るのではなくどこか重要な起点に行くべきではないのか、などと考えてはしまいますが。

とはいえそれがどこか解らないし逆にもっと早く悪くなるかもですけどねw

 

まあこれはSFというよりやはり歴史を面白く語るためのテクニックなのでしょう。

このやりかたで他のいろいろな世界の歴史も紹介して欲しいなあ。

物凄いメジャーどころではなくちょっと詳しいひとだけが知ってる話なのがとても楽しいですね。