ガエル記

散策

上野千鶴子氏の祝辞


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先日(平成31年4月)東大入学式で行われた上野千鶴子氏の祝辞です。

自分でもあきれることですが今まで上野千鶴子氏の名前や影響力の話を聞いたことはあってもそれほどに意識してこなかったのです。

それがこの祝辞をツイッターで読んで強く揺さぶられました。このような祝辞を大学入学式という人生の門出において聞くことができるとはなんという幸運か、と思ったのですが実際は賛否両論でネットでは「祝辞にふさわしくない」などという批判から単なる罵倒語、TVでは「文句を言うだけでどうすればいいかが示されてない」という頓珍漢なコメントを発する者も存在したようですが、それは「これから若者が学んで自分で答えを見出してほしい」と祝辞の中に込められているではないですか。

聞いた時から感動した学生はもちろん、反感を覚えた学生たちも人生を歩む中で「これが上野千鶴子氏の言葉の意味だったのか」と気づいていってほしいですし、東大生だけではないですが東大に合格するほどの知性を持った人間であるならば理解するべきことであると思います。

そこから自分なりの解決の道を進めばよいのですから。

 

ネットで色々読んでいて「アーーー」と思ったことがあって、たぶん私と同じような年齢の女性で自分の生活を必死で過ごしていて何かの報道などでふと気づいてみると「あれ?何十年前と全然変わってないんじゃ?」と気づかされることがあるわけです。

女性問題、というのもその一つで「いや色々良くなってるよ」と言われるかもしれませんが様々なことを併せ考えると停滞もしくは逆行し悪くなっているようにすら思えるのです。

上野千鶴子氏の祝辞は最初から最後まで非常によく練られた素晴らしい文章でこの長さの中に伝えるべき言葉をみっちり詰めこんであって特別にどこかを取り出しては言えなくて、一文一文話題になる密度があります。

是非きっちり全文読むべき内容です。

でも特に私がぎょっとした箇所があってそれは最後近くの

「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。」

というものです。

最後近くですから上野氏の思いとしてもここが祝辞のクライマックスなのではないかと思いますが本当に素晴らしい言葉ではないですか。

東大生になれる知性という恩恵をそういった恵みのない人々を助けるために頑張るべきですよ、と。

ここに上で書いた「答え」が若者たちへの指針がきちっと示されているのです。

(国語の試験じゃないですが、私ですら判読したんですからちゃんと読み解いてくださいよ、木村さん)

これは以前、五嶋龍氏から聞いた言葉と通じています。

「ハーバート大学に通う大学生は責任を自覚しています。自分のための金儲けではなく他人のためにどう働くかが自分たちに課せられた使命であると」

龍氏は「ハーバートを卒業して会社社長になるとかは評価されなくて(金儲けとかはそんな頭脳を持ってたらすぐできるんでしょうね)ボランティア活動をするようなそんな社会に貢献できる人こそが称えられるんですよ」と(おおよその記憶です)話していてご自身がハーバート卒でもあることでどんなことが自分のやるべきことかを考えなければならないと言われていたのを覚えています。

その時私は「ハーバート大卒は凄く偉いけど、東大卒者がそんな意識を持ってるか聞いたことがないなあ」と感じたのですが上野氏の祝辞を読んで「やっぱり今からか!」と少し思ったのでした。いやいや大切なことですよ。今からでも遅くない、頑張ってほしいものです。そんな頭脳の恩恵を得られなかった者より。

そしてその後半の言葉に私は、はっとしたのです。

「そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。」

フェミニズム、というものがどんなものなのか、私にははっきりわかっていませんでした。今もよく判らないのですが「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」というこの一文を私はまったく考えてなかったように思います。

いや、思っていたのかもしれませんが上野氏の祝辞で読むまでははっきり意識してなかったのです。

弱い者は強くなれ、と言われ続けてきたように思います。

これは「女性」という意味だけではなく男性もまた同じことですね。病気の人、貧しい人、一流大学や一流会社に入れない人、いじめられるタイプの人、コミュ障、すべてのマイノリティ、そういう人々がそのまま変わらなくても尊重されていくべきと思う思想、そういうことを意識していなかったように思いました。

 

上野千鶴子氏の祝辞はすべての人に知って欲しい言葉です。