ガエル記

散策

「胎児のはなし」増﨑英明・最相葉月-後半の前半ー

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さて「胎児のはなし」続き第六章から行きます。

その前に第五章の最後「膣を通るとき肺胞液を絞る」はとても映画的な説明です。それまで液体の中で酸素を得ていた胎児が生まれた途端に肺で呼吸をする。そのために肺がスポンジ状になっていて界面活性剤である肺胞液をつくってためている。

胎児はぎゅーっと狭い産道を通ることでスポンジ状の肺が絞られ肺胞液を鼻からジョジョジョーと出す。それでスポンジのような肺が絞られ外に出た途端パーンと肺が開いておぎゃあと泣く。初めて呼吸をするのですね。

この描写は感動的です。映像作家であれば映画にしてみたくなりませんか。ある場所で生きていたものが突如別世界に行って未知の感覚を知る、という話がとても好きなのです。人間は皆それを一度経験しているということになります。

 

さて第六章は出生前診断について語られていきます。

お母さんがRhマイナスで子供がプラスだった時が判るのは役に立つのですがそれ以外は何の意味があるのかと、増﨑医師は言います。ここが彼の一番の思想になるのです。

生選別も時に中絶につながります。

そしてNIPT胎児の染色体検査そこで陽性が出た場合には羊水検査を必ず受けることになります。現在の検査の対象は18トリソミー、13トリソミー、21トリソミー(ダウン症)の3つの疾患で遺伝子の異常まではほとんどわからないということですが、いずれわかるようになるでしょう、と増﨑医師は言います。

この検査を医師は提示するだけで決めるのは妊婦さん及びその家族ですが「提示するってことは勧めているってことですよ」と増﨑医師は言うのです。

そしてそれを「受けなかった」という人を「正しい選択です」といい「受ける」ことも「正しい選択です」という。

やったから正しい、しなかったから正しい、そういうのはすでに通り過ぎている、と言います。

現在出生前診断においての問題はここにあるのでしょうが、もしかしたら問題でもないのかもしれません。

日本では90%中絶になるそうです。ヨーロッパだとこれがけっこう産む、のだそうです。そこは宗教や福祉の違いなどがあるでしょう。

増﨑医師はこの話はしたくない、とまで言っていて、あるレビューではそのことを避けていたのでこの本は意義がない、と書いている人がいましたが読んでみると増﨑医師の考えははっきりしています。

今の妊娠出産に関する医療は検査が多すぎる。妊婦さんはもっと幸せでほんわかしていて欲しい、人生は色々なことが起きるもの、でも楽しむためのものだ、と。

そういう意見に関しても賛同する人と妊婦の事を考えてない、と感じる人がいるようです。それもまた当然のことなのかもしれません。

私自身は読んでいて確かに増﨑医師の言う通りだと感じました。

トリソミーに関する問題は悩ましいものです。あるいはわかるなら診断を受けてダウン症であれば中絶という選択をあたりまえにしてしまうこともあり、そのことも間違いとは言えないでしょう。

産む選択をする場合には周囲の理解や福祉がないと母親には大きな負担があるわけです。

とても気になることであり今まで幾つかのドキュメンタリーなどを観ましたがそこで語られることはほんとうの愛と幸せを知ることができた、ということでした。そしてそういう幸せを拒絶する社会に対して疑問を投げかけていく姿勢でした。

ただこういう選択を医師が妊婦に対して強制できないのが今の社会です。それはもちろん良いことなのです。

生きていくうえで様々なことがあり、そのたびごとにどうすればいいのか、何が大切なのかを考えていかねばなりません。自分にとって大事なもの、最も愛すべきもの、を考えることで人生が作られていくのだと思います。

 

そして次に二人の話はとても不思議な方向へいきます。

夫婦は他人ですが実は生物学的につながっている、という話です。

家族の中で夫婦と言うのは別々の男女であり血のつながりはないわけですが、DNAでつながっているというのです。

つまり胎児と母親はDNAを通じて情報交換をしているわけですが、もちろん胎児のDNAは半分父親が由来なわけで、父親って妊娠中は外にいて何も関係ないと思っていたが胎児を介して父親のDNAが母親に行っている、ということなのです。

夫婦と言うのは遺伝的つながりはまったくない、と思っていたがこどもができるとつながる、子供を介して父親のDNAが母親の体を巡る、というわけです。

ところが話は進んで妊娠はしなくてもセックスをするだけで男のDNAが女性に入っていく、という話になってきます。

セックスをするだけでも女性は男性のDNAを受け取る。こうして似た者夫婦が生まれる、という話になりますw

 

ところで今からの話はこの本の内容ではなくてネットで仕入れたものですが、恋人たちがキスをしますよね。

あれって何の意味があるのか?何の意味もなくべちゃべちゃしているだけじゃないのか、って思いますよね。

ところがあれって男性の持つ免疫を女性の体に入れ込むことによって女性がより強い免疫を持つ体になるのだそうです。

それでより安全な妊娠出産をするための重要な準備だというのですね。いきなり性交・妊娠・出産するより半年ほど(ここ適当ですが)時間をかけてたっぷりキスをすることで母体の免疫を高め、より強靭で健康な体を作って性交・妊娠・出産することが大切である、と。

本当なのかは知りませんが目からうろこでした。

人間は無駄なことはしていないと。

キスというのは愛情の表現ですね。

やはり愛のある妊娠・出産は素晴らしい、ということなのでしょう。

 

第七章

この章で一番の驚きだったのは「長崎県は母乳を遮断してがんを防いだ」という項です。増﨑医師は佐賀県伊万里市の出身でお隣長崎県産婦人科医として活躍されていたのですが、その仕事のひとつに「長崎県ATL母子感染防止研究協力事業連絡協議会会長」として」白血病のプロジェクトに携わってこられたとのことです。

成人T細胞白血病(ATL)という病気があって母乳から赤ちゃんに感染する、30年前に長崎県にキャリアの妊婦さんが7パーセントいて全国でも多い地域だったのを「母乳を飲まさない」ことで0.8%にまで減らしたというのです。

がんを疫学で減らした、というのは世界で初めて、という事らしいです。長崎県は30年間それにお金を出した、そして30年前に基礎研究をやっていた先生方がそれを見つけたと増﨑医師は賛辞しています。

でも最初は出る母乳をやらないために母親にがんのキャリアであることを告げなければならない。この時妊婦さんにだけ告げて夫には黙っていたと言います。離婚話をおそれたそうです。

またもっとも自殺を恐れたけど30年間自殺はなかったそうです。しかし母乳をやらないことで姑にいびられたり、離婚はあったそうです。うわあ、となります。母乳をやらないためか、がんのキャリアであることを仕方なく告白したためなのか、どちらにしてもそれで離婚とは。もちろん別の理由からかもしれませんが。

この成人T細胞白血病の治療は十分なものがないそうです。それを疫学で減らした。すごいことですね。

 

今日はここまでにします。

後半の後半はまた後で。よろしく。