ガエル記

散策

「音楽が終わった夜に」辻仁成

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凄く良い本でした。

先日フレディ・マーキュリーを描いた映画「ボヘミアンラプソディ」を観たこともあって書かれていることが映像のように浮かんできました。

もちろんそれは筆者である辻仁成氏の文章が素晴らしいからに他ならないのでしょう。

ロックミュージシャンを目指してエコーズでデビューしZOOという名曲を作り活躍し、後に作家へと転向し美人女優と結婚離婚を繰り返し今は愛する息子とパリに住みながらもまだなお作家だけでなく様々なクリエイターとして名をはせるというちょっと出来すぎ以上の存在である辻氏。

でもなぜそういう人生を送れるのかは本著を読んでいると判るような気がしてくるのです。

恵まれたすらりとした容姿に加え音楽と文章の才能。そしていつも明るさをもちながら真摯に歩んでいこうとする気持ち、友情と別れの時の切ない思い。

 

実を言うと辻さんを知ったのは辻さんの音楽でなくてブルーハーツヒロトが辻さんを慕っているということを本で知ったからでした。

私はブルハ好きでヒロトがそんなに慕う人ならもう絶対ステキな人なのだろうと思ったわけです。

その後辻仁成氏はあっという間に作家として有名になっていき、ロックミュージシャンだった人が小説家としても活躍できることに驚きました。

最近はツイッターでフォローしていてパリでの生活を読ませてもらってますが知れば知るほど好きになれる人でツイッターの文章だけでいかに辻氏がきらめく感覚を持った人物なのかがわかります。

おやすみ日本。とんとんとん」というのが彼の決め言葉ですが、その一文でどんなに多くの人(特に女性?)の心が癒されているのか、と思うのです。

こんな才能を持つ人はそんなに多くはない、というか他には知りません。

 

さて本著、絶対映画化してほしい作品ですね。

今はもうこんなロックの時代ではない、と思うだけによけいにこの世界を映像として留めて欲しい。

良い話がいくつもありますが特に自分がマンガ好きなせいもあって辻さんが漫画家志望の青年と仲良くなり共作しようという話は心にせまってきます。

「凄い作品」が生まれるはずだった。

でも辻さんのほうが音楽に行かなければならなくなって共作が中座してしまう。

「いい加減な奴だな」と言われてしまった若き辻仁成

もし時期が少しずれていたらほんとうに「凄い作品」が生まれるはずだったのかもしれない。

この本で辻氏はとてもロックを小説には書けない、という。

他のロック小説を読むと醒めてしまうという。

ロックをやっていたわけじゃないけどわかるような気がします。

あの熱い思いや音楽の鼓動を文章の中に封じ込めることはできないのでしょう。

 

と判りつつも映画という媒体なら少しだけでも近寄れるのじゃないかと思い、この世界を映像にして欲しいと願ってしまうのです。