ガエル記

散策

『ROMA/ローマ』 アルフォンソ・キュアロン 3

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続きます。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

おばあちゃんと子供たちと映画館に行くクレオ。はぐれた子供を探すクレオ

横滑りしていく映像もまた見惚れる綺麗さ。夜の街並みの光と影。立ち並ぶ店と行きかう人々。

 

クレオは自分を妊娠させて姿をくらましたフェルミンを探すために彼の友達を訪ねる。広々とした風景。

そしてたどり着いたクレオが見たのは広大な場所で大勢の男たちが武芸の訓練を受けている光景でした。あの夜フェルミンがクレオに見せた武道の型を学んでいる様子です。

武芸を教えているのはテレビでも怪力を披露していたたくましい男性“ソベック先生”不思議なバックルのついたベルトをしていて正義も味方のように見えます。

掛け声はフェルミンがやっていた日本語。掛け声といっても「いち、にい、さん」というような数えかたということですが。ソベック先生は精神を鍛えなくてはならないと言って目隠しをしてを両手を頭上で組み片足立ちを始めます。

戸惑い馬鹿にした雰囲気の人々にソベック先生は「がっかりしたのか?空中浮遊でも期待したか?では自分でもやってみろ」と促す。男たちだけでなく見ている女たちも皆片足立ちをやってみるがふらふらして先生のように微動だにせず立つことはなかなかできない。

しかしその中でクレオだけが(お腹が大きいのにもかかわらず)すっと片足立ちで立てるのでした。(なぜなんだろう?)

 

 

そしてなんだか飛行機がずっと向こう側を水平に飛んでいます。一度だけじゃなく何度も飛んでいくのです。

 

訓練が終わりクレオフェルミンを見つけて声をかけます。

再び妊娠したことを伝え、父親はあなたよ、とはっきり言うのですがフェルミンは違うと言い張り「二度と来るな。来れば殴りつける」と目の前で武芸の型を見せて脅すと矢のように走り去ってしまうのでした。

こうした展開が現実で映画で何度あったのかたぶん数えきれないことでしょう。

そして何度見ても慣れない最も嫌悪を覚える場面です。

 

場面が屋敷に戻り、クレオの女主人であるソフィアが部屋にこもって電話で夫の浮気と送金を半年もしてくれていないことを誰かに訴えて泣いています。

息子がこれを立ち聞きしているのに気づいたソフィアはクレオに「なぜ立ち聞きさせたのか」と当たり散らすのでした。

その夜、ソフィアは酔っぱらって帰宅。狭い駐車場に大きな車を何度もぶつけ壁のあちこちを壊します。

そしてソフィアはクレオの頬に手を添え「私たち女はいつも孤独」と言って笑うのでした。

ここでもクレオとソフィアの男との決別が並列して描かれました。

 

 屋敷に一緒に住むおばあちゃんは優しい人でクレオの生まれてくるベビーのためのベッドを買いにつれていってくれます。

しかし街中は妙な緊張感にあふれて危険な雰囲気で包まれています。

大きな家具店でおばあちゃんが「お得意様価格」でベッドの割引を交渉している時、外で大きな音と共に暴動が始まり銃を持った数人の男たちが店にも入り込んできました。

ここでおばあちゃんが(おばあちゃんのほうが大柄です)妊婦のクレオを庇う場面にジンとしました。

クレオは家政婦だし自分のほうが年寄りなのにクレオを後ろに下がらせ腕で守ったのです。やはりこれはクレオが妊娠しているからですよね。

こういう優しさ・勇敢さってなんでしょうか。

この映画の一番のヒーローっておばあちゃんなのではないですか。

 

そしてなんとその暴動男の一人があのフェルミンだったのです。

フェルミンはお腹の大きなクレオに銃を向けます。フェルミンはそのまま逃げ去ってしまいます。

クレオの足元にはしずくがたまっていきます。

 

あの杯が割れた場面を思い出します。

おばあちゃんはクレオとタクシーで病院へと急ぎます。手を握り祈り続けるおばあちゃん。おばあちゃんのほうが泣き続けて動揺しています。

分娩室での緊迫した様子。矢継ぎ早の質問。赤ちゃんの心拍が聞こえない。緊急の手術。

赤ちゃんは死産でした。

 

これは後で調べてから知ったことですが映画中に出てくる暴動はメキシコで1971年6月に起きた「血の木曜日事件」というもののようです。

この事件の首謀者に入っていた男と善良で温和なクレオが関係し、その子供が死産だったということも物語の暗喩なのかもしれません。

 

 続きます。