ガエル記

散策

『牯嶺街少年殺人事件』少年の恋と支配

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『牯嶺街少年殺人事件』どきりとしてしまうのは舞台となる台湾・台北に日本統治下の影響が色濃く映し出されていることです。

 

ネタバレですのでご注意を。

 

 

 

主人公・シャオス―の家族は上海から渡ってきた外省人で残されていた日本家屋で生活しています。

「8年間日本と戦ってきたのに日本家屋に住んで日本の歌を聞かなきゃならないなんて」

家屋の屋根裏には日本刀や銃までもが隠されていて少年少女たちはそれらをまるでおもちゃのように扱ってしまいます。

この物語はまだ何もわからず純真さだけで生きている少年シャオス―が母子家庭で貧しい境遇の少女シャオミンに恋をして「ぼくだけがきみを理解できる。ハニーに代わってぼくがきみを守る」という思いをはねつけられ女性用の日本刀で彼女を刺し殺してしまう、という悲恋物語です。

と同時に少女シャオミンが台湾にそれまで住んでいた人々を意味しているのだと思えます。そして少年シャオス―は後で大陸から来た外省人です。

少年・男は暴力を持って少女・女性を「愛情」という名前を付けて支配下におこうとすることがここでも描かれます。

一方のシャオミンにはそうした男たちから身を守る力がなにもないのです。

幾人もの男たちがシャオミンを支配下に置こうとしています。それが台湾そのものだと示されていきます。

ただシャオミンという少女は自尊心をなくすことなく、どの男に対しても毅然とした態度を持ち続けていました。

 

それを思うと、外省人であるシャオス―のシャオミンへの「これからはぼくがきみを守る」と言う言葉がどんなに惨い意味を持つのか、シャオス―は判っていません。シャオス―はそれを恋の告白と考えていますがその言葉はシャオミンにとって侮辱でしかないのです。

「わたしを変えようとするのね。わたしは変わったりしない」とシャオミンが反抗するのは当然ですがシャオス―はなにも理解できていないのです。

 

男が暴力で女を支配することは愛情ではなく、

そして武力で支配されることを誰も望みはしません。

 

今現在も世界のそしてアジアでもあちこちで同じ苦しみと悲しみが繰り返されています。

シャオス―とシャオミンが幸福に恋し合うことはできなかったのでしょうか。

いまもなおできないのでしょうか。

 

刀を突き刺すことで幸福にはなれないのです。