年齢を経てくるほど思い出す物語というものがあります。これもその一つです。
『ナルチスとゴルトムント』という副題もあるように二人の男性を描いたもの、といってもストーリーのほとんどはゴルトムントに割かれています。
修道院で学問をするふたりはどちらも優れた容姿と才知に恵まれていますが少し年かさのナルチスは生まれついての修道僧のような人格なのに対しゴルトムントは愛らしさもあって女性から好かれまた本人も女性を求めて修道院から飛び出し、女性遍歴の旅に出るのです。その旅の途中で彼は自分の中に彫刻家としての才能を見出したのでした。
ゴルトムントの生き方はアーティストとして理想なのかもしれません。だからこそ優秀なナルチスはゴルトムントに惹かれ愛します。
ゴルトムントは女性遍歴の集大成として美しいアグネスを愛し最高の快楽を彼女に与えて愛されるのですがその代償として彼女の庇護者である伯爵から絞首刑を命ぜられます。とはいえゴルトムントは愛するアグネスに汚名を着せないようにコソ泥として捕まるのですが。
死に直面したゴルトムントを救ったのは他ならぬナルチスでした。すでに修道院で高い地位に就いていたナルチスは友を救い出したのです。
ゴルトムントはお礼に修道院でマリア像を作ります。その美しさは類まれなものでした。
「この女性の美を作り上げるためにあれだけの女性遍歴が必要だったのだ」とゴルトムントは言います。「しかし今それを使い果たしてしまった」
ナルチスはゴルトムントに友情だけではない愛情も持っていました。
それでも「もう一度旅に出たい」というゴルトムントをナルチスは見送ります。
しかし二度目の旅は悲惨なものでした。
既に若さと美しさを失っていたゴルトムントはもうあの頃のように女性たちから求められることはなかったのです。
ほどなくしてゴルトムントは疲れ老いさらばえナルチスの修道院へと戻ります。
ナルチスは美しかった友の死を抱きしめるのでした。
実を言えばこのゴルトムントの最期に私は「ありがちだよね」と苦笑してしまうわけです。
しかしやはり美しく才能がありながら何もしないナルチスも悲しい存在でもあるわけですよ。
ゴルトムントの生き方が間抜けなようにナルチスの生き方も間抜けなのです。
どちらをとっても間抜けならどう生きてもいいのです。
ゴルトムントは間抜けですが愛するアグネスに迷惑がかからないようにと思案するのに感心しました。
それなのにもう「魅力なくなった。劣化した」とアグネスに見捨てられてしまうわけです。
ほんとう散々なゴルトムントでした。