ガエル記

散策

『女の園』木下惠介

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昨日、木下惠介映画作品はほとんど観ていない、と書いたのですが、本作はその数少ない「観た作品」のひとつです。

観たのはほんの少し前なのですがどうしてもまずこれを観たくなってしまって再鑑賞しました。

 

ネタバレですのでご注意を。

 

 

 

女の園』というタイトルが今となっては奇妙に思えますが私立女子大学のお話です。

伝統と女性の気品を誇りとして謳い上げる女子大学側と人権と自由を求める女子大学生たちとの戦いと葛藤を描いた作品です。

学生闘争の走りともいえる本作だそうですがさすが勉学に励んだ若き女性たちの強い意志と闘争心が迸るようでしっかり者の明子様(久我美子)はつらつとした富子様(岸恵子)の魅力もさることながら、なんといっても目を引かれる、というより度肝を抜かれてしまうのが芳江様(高峰秀子)なのでありました。

3年間銀行で働いてから入学したという芳江にはすでに結婚を誓う恋人がいるのですが父親から反対されあげくに別の男性との結婚を押し付けられそうになっています。芳江は同じように大学(もちろん別の)に通う恋人と卒業後は必ず結婚しようと誓い合っているのですが、彼女は女子大の規則が厳しくて恋人との手紙を検閲されていたり異性交際を禁じられ、勉強は思うようにはかどらず、実家に帰れば父親から叱責されるばかりで精神が次第に追い詰められていきます。

女子大では自由と人権を勝ち取ろうという気運が高まっていき、芳江自身もそれに加わりますが教師の思い入れから彼女への処罰が軽くなりそのことが逆に彼女を苦しめます。

恋人に会わなければ悲しく会えば会ったで苦しくなってしまうという芳江は観ているとイライラさせられますし、ここまでおかしくなってしまう人がいるのだろうかとさえ思いますが、実際にもこういう人もいるし自分自身も変になってしまうこともあるのかもしれません。

なにしろ彼女はなにをやってもうまくいかず周りもみんな敵のようでいっぱいいっぱいになってしまっていて何も考えることができなくなってしまったのです。

 

彼女の恋人も友達も彼女を救うことができなくて歯がゆいのですが、恋人の下宿に娘を奪い返そうとやってきた芳江の父親に向かってそこの主人が「子供たちのことも考えてやれないのかあんたは、いい年をして」と怒鳴りつける場面だけが救われました。この短い文句は監督の思いでありましょう。

芳江のせいで高峰秀子は「変な女」のイメージになってしまいましたが、唯一恋人に再会して一緒に歩く場面はとても美しく印象に残りました。特に空を背景にふたりの男女の姿が風に吹かれながら影のように歩いていく情景はすばらしいシークエンスです。

 

女子学生たちも良いですが、怖い寮母・舎監を演じる高峰三枝子がまた良いです。私は高峰三枝子と言えばやはり『犬神家の一族』なのですがこの時とあまり印象が変わらない迫力のある美貌の持ち主です。

 

1954年の作品ですが今観ても、というより今これほど見ごたえのある日本映画作品はそれほどないように思えます。