アレサ・フランクリンの生涯を描いた伝記映画といえる映画作品です。
と言っても私は彼女のことを何も知らなったのですが、それだけに観ていていろいろと衝撃を受けました。
ネタバレしますのでご注意を。
ひとつはもちろんアレサの歌唱力と魅力です。本作を観てYouTubeで本人の歌声を聞いて人々がどんなに酔いしれたかと想像するのも楽しいことでした。
またひとつ美しいものを知りました。
もうひとつは怖ろしいものです。
黒人への人種差別は周知ですがその黒人の中でも女性差別が酷いという事実も聞いてはきました。
しかし単なるフィクションではない本作のような伝記映画で女性に対する男性の考えというのがどんなものだったかを見せられると改めてショックを受けてしまいます。
本作はあくまでもアレサの歌声を賛美するために製作されたのでしょう。タイトルが『リスペクト』であることからも彼女の少女時代を暴いて描写するのは極力避けたのではないかと思われます。しかしその中で先輩女性歌手から「あんたら教会の人間はふしだらだ」と言われる場面で疑問が生じました。
ネットで彼女の生涯を読むと牧師である父親は女癖が悪く麻薬を使用した乱交パーティを教会で行うような男性だったと信じがたいことが書かれていました。しかしだからこそあの女性歌手は「あんたら教会の人間はふしだらだ」と言ったのでしょうし本作はその表現にとどめたのでしょう。アレサの母親はそれに耐え切れず家を出ていきます。(当然ですね)
アレサが12歳で子供を産んだこともわずかな秒数場面でお腹の大きくなった少女の映像で示されます。
もちろんその後まだ10代のアレサにふたりの男児が「ママ」と駆け寄る場面で解ることではありますが。
そしてアレサの奇妙な反抗と台詞で「もしかしたら彼女の父親が子どもたちの父なのか」とぞっとしましたがネット記事では〝そういう噂はあったものの実際は近所の少年が父親だとされています”と書かれています。
ではなぜ映画でははっきりと「近所の少年がアレサに近づく場面」を描いてないのか。
ポルノ的表現は避けて少年が登場するだけでもよかったのに?
そしてアレサは19歳で父親とケンカ別れする形で家を出新たな男と結婚し3人目の息子を産むのですが父親が不自然なほどこの男を毛嫌いする理由が明確に描かれません。
この男は売春斡旋業者でもうけていたのですから父親が娘の将来を懸念するのは当然ですがそこも隠してしまったために不思議な嫌い方になっています。
そしてアレサはその男から酷い束縛と暴力を受け続けることになるのです。ここはさすがに描かれていますがそれならば今までの省略を思うとどれほど酷い目にあっていたのかとさえ考えさせられます。
父親から引き離してくれる男性ならばと逃げ出したからなのでしょうか。
ここでやはりタイトルの『リスペクト』が効いてくる。
娘へのリスペクト女性へのリスペクト妻へのリスペクト。
『リスペクト』を作り皆で演奏しコンサートで歌うシーンは圧巻。
すばらしい。
しかしその歌を生み出すためにアレサ・フランクリンがどんな思いで生きてきたか。
その代償は過酷すぎるのです。
なんかめちゃ泣ける。