「いずれすっかり死ぬだろう」
萩尾望都著『マージナル』の登場人物メイヤードのこのセリフが心の支えになっています。
もちろんこれは悪態をつきたいからの発言で本心ではないのです。
以下、(というか上もだけど)ネタバレになりますのでご注意を。
メイヤードは自分の体が病みボロボロのめちゃくちゃだと悲観しきっています。
わたしにもわたしの子孫にも未来は必要ないと。
地球が病んでいることに悲観しそれを不毛と呼び最後の番人だと嘆きます。
今現在、地球というまではないのですが日本というこの国にいてどうやら俗にいう「純粋な日本人である」私はメイヤードと同じように嘆いているようです。
「いずれすっかり死ぬだろう」
「純粋な日本人」を名乗る人々があちこちで吐き出しているさまざまのおぞましい発言に失望しきっています。
「美しい国日本」なぞという不気味な言葉を掲げる人々のまったく美しくない言動に疲れ切っています。
萩尾望都氏は『マージナル』において何を描こうとしたのでしょうか。
その世界は男性だけが存在する世界です。ありうるわけもないただひとりの「マザ」という女性のみが子供を産み続けるという不可思議な世界です。
「マザ」が生む子供の数は年々少なくなっていきます。もう何年も新しい子供はもらえていない、という世界です。
こうした世界でも人々(男性のみの)は「生きていきます」
悩み苦しむメイヤードの傍らでアシジンは「なんだかなあ」という顔をしています。
アシジンという人物は単純に生きる人物に思えます。
欲望のままに生きている、というのでしょうか。
女性がいない世界に与えられた「色子」という少年を愛するシステムの中にいてキラに惹かれそのまま躊躇いもなく買って自分のものにします。
女性の顔を見せたキラを求め、キラの心を奪ったグリンジャに嫉妬します。
キラやグリンジャとの交流の中で世界のからくりをアシジンは知っていきますが彼にとってそれらはさほど重要なことではないようです。
ラスト。アシジンは元居た場所へと戻ります。
かつては争ったグリンジャと共に新しくやってきたキラを迎え三人は再び生活をはじめます。
この美しいラストを私は愛します。
さて現実の地球はそして日本はこの美しいラストを迎え三人と同じような新たなる再出発を始めることができるでしょうか。