ガエル記

散策

『地球ナンバーV‐7』横山光輝

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

数ある横山作品からこの作品を選んだのは「もしや『スター・レッド』の元ネタなのではないか」と思われるコメントを読んだからなのです。

果たしてどうなのでしょうか。

まずはこの表紙絵。『スター・レッド』のレッド・セイの特徴は赤い目。本作の主人公ディック牧もご覧の通り赤い目で描かれています。

ほほう。それでは中に入っていきましょうか。

 

冒頭、地球上に生命が生まれ環境に順応し生活に合った体を作り始めた、という説明がなされる。

次に突如飛行機事故が描かれ激しい損壊の中に奇跡的に生き残っていた姉弟がいたという事実が提示される。

 

時は未来。

地球と火星は戦争になりかねない状態にあった。

もともと火星は地球人の移住先として発展していたのだがいつの頃からか火星に住む者に超能力が芽生え始めたのだ。その原因は不明。(ここも『スター・レッド』と同じ説明)

火星には有り余る資源があり人々は超能力を持つ、片や地球にはすでに資源は枯渇し火星に頼るしかない。それなのに火星人が地球人の配下に置かれるのはおかしいと主張し始め地球人はこれを制したいと思っているが宣戦布告をすることはできないのだ。それをやれば地球も加勢も一瞬にして廃墟と化すからだ。

 

ううむ。この発想自体がおかしい話し合いで解決しよう、と言うべきなのだけど実際の地球のこの戦争状況を見ているとそれはあり得ないとわかってしまうのが辛い。ここでは火星人と言ってももとは地球人なのだから。

そして戦争ではないものの超能力を使った殺し合いという話になっていく。

 

それにしてもいつものことだが主人公がかっこよすぎるくらいかっこいい。

なにこの超絶美形。

ポーズが美しすぎて

しかも哀愁漂う

 

次々と超能力秘密工作員を送ってくる火星政府に対して地球政府は同じく「地球にいる超能力者」で立ち向かおうとする。

主人公ディック牧は地球政府から選ばれた超能力者として秘密工作員と戦うことを任命される。ディックは嫌がるが拒否しても襲われることによって仕方なく戦う羽目になってしまうのだ。

ディックの姉もまた飛行機事故を機に超能力者になったのだがなぜか彼女はこの争いに巻き込まれない。

それが何故なのかはわからない。姉が超能力者なのはわかっているのだからあり得ないと思うのだがそこは横山氏の好みなのだとしか言いようがない。

(超能力を使うのだから男女の差はないと思うんだけどねえ?)(まあだからこそ萩尾望都はセイを女の子にしたと思うんですけどね)

横山作品に必要な二枚目紳士。火星からの秘密工作員のひとり。

だけどこの人がラスボスじゃないのが残念。

ディックは彼に地球政府と同様に火星政府も時が来れば超能力者は廃絶されるのだと説得するが解ってもらえない。

不思議なのは彼でさえも「人間にもてるのは一つの超能力だ。もし幾つもの超能力を持っているのならそれは化け物だ」と言い放つところだ。

ひとつもふたつも一緒だと思うけど。

そして一つなら正常だがふたつなら化け物というのはそのまま持たざる人間に言えることではないか。

おかしな人だ。とここで訝しむのもおかしいのだけどね。

横山光輝の超能力場面はかっこいいなあ。

 

そしてディックは幾つもの超能力をもつということがわかるのだ。

虫さえも男。横山先生こだわりすぎい。

秘密工作員も男ばっかりだ。

 

 

かくしてディックは地球政府の一員として火星へと赴く。

そこで親友のブレランドと5年ぶりの再会となる。

このブレランド、見た目は人の好い豆狸のようでいてディックに引けを取らない超能力者でしかも強い友情を持つ義理堅い人物なのだ。

このブレランドの存在ただごとではない。まあ彼のような友人を持っていることがディックの強さ、この辺は関羽を従える劉備と同じってことだろう。

見た目は関羽じゃなくて魯粛だけど。(いきなり呉)

しかもなんの説明もないのに物凄い友情で結ばれているのだ。

も少し説明して二人に何があったのかを~。

 

火星でもディックとブレランドは次々と工作員を殺す羽目になるが彼らは恐ろしい牢獄に入れられていた者たちでV-7を殺せば解放してやると言われてやむなくやっているのが悲しい。

このあたり、忍者の運命に似たものなのか。

 

高い超能力を持ち自尊心も高いディックがギャロップに襲われ事故ってしまい絶体絶命でブレランドの名を呼ぶところは胸にくる。

そしてディックの呼び声を感じたブレランドはパンツ一丁で飛び出しガスタンク車に飛び乗り敵を次々とやっつけて駆け付けるのだ。

いやこいつの方がすごいんじゃない。

急にだけど横山先生の描く男性の後ろ姿首の太さが男らしさを感じます。

 

こうしてディックとブレランドは互いに助け合いながら(というかブレランドは巻き込まれただけだけど)ギャロップを倒してハワードクローム邸へと侵入する。ブレランドがみるみるスマートにならないのは不思議だ。

 

 

結局地球人の敵は火星人ではなく正常人ではない超能力者たちだった、という話なのだ。

これも忍者たちが良いように使われ平和が訪れると邪魔者となっていく、或いは楚漢戦争で国士無双と呼ばれた韓信が平和になれば邪魔者になる話と同じだ。

韓信は死ぬしかなかったがディックたちは超能力者たちだけで新天地を目指すという希望あるラストになっています。

とはいえその新天地があるのかどうかはわからないしそうなるまでに多くの超能力者たちが殺されいまもまだ地球に残っているだろうという思いもある。

 

極めて宇宙的なSFにもかかわらずその骨組みは忍者ものや三国志項羽と劉邦の世界につながっているのが横山世界なのだ。

 

萩尾望都スター・レッド』はやはり大きく影響を受けているように思える。