第7話「月の正体」—安冨歩教授が言われる
とても素晴らしい一話だったと思います(ほとんどこればっか言ってる気がしますが)
ネタバレしますのでご注意を。
これまでもフィリップは常に男らしさに価値観を見出す高慢な男性として描かれてきましたが、さらに年齢を経て苛立ちや不満を抑えきれなくなってきます。
自分は特別な存在である王子なのにそれを他人から認めてもらえないことや素晴らしい才能や肉体を持っていたのにそれを有効に試すことができなかった人生を悔やんでしまうのです。常に女王の夫という存在に甘んじなければならないことに男性としての不満も消えないのでした。
そんな時に彼がテレビで観た月面着陸をした三人の男たちと会見することになりフィリップは高揚します。
パイロットでもある彼は自ら操縦する飛行機で許容範囲を超えた高度まで飛びしばし宇宙を体験してみるのでした。
ところが実際に宇宙飛行士たちと会話をしたフィリップは激しく失望してしまいます。月から地球に戻って来た三人の若い男性らはそろって風邪をひき(免疫力が落ちていたのでしょう)感動のはずの月着陸の記憶がほとんどなくくだらない(とフィリップには思える)話題で笑い、フィリップが見飽きたバッキンガム宮殿に興味津々で屈託なくふざけたり記念撮影をする平凡な若者に過ぎなかったのです。そこにフィリップが嫉妬した英雄はいませんでした。
(ところで私は当時はまったくよく判らなかったのですが今は宇宙飛行士に憧れています。特にアームストロング船長)
このエピソードにフィリップの不信仰話が絡んできます。もともと信仰心がなかった彼は修道女だった母からそのことを咎められていました。
日曜日の礼拝も苦痛でしかなく年取って上手く説話ができなくなった司祭にもうんざりしていました。
エリザベスの采配で新しく就任した司祭は宮殿の敷地内に使われていない幾つかの建物を見つけフィリップにその一つを司祭たちの勉強会に使わせてほしいと願い出ます。
国内の苦悩する司祭たちの立ち直りの場にしたいと。
許可したフィリップですが司祭たちの勉強会で「くよくよ悩んでいる暇があったら行動せよ」と罵倒します。
その後、宇宙飛行士がありふれた人間だったことに気づいたフィリップは自分の心の怖れにも気づくのでした。
勇気を奮いフィリップは司祭たちの勉強会を再訪し謝罪します。そして初めて彼は
「助けて欲しい」
と司祭に頼むのでした。
フィリップが幼い時から厳しい環境で孤独に生き抜いてきたことはこれまでも語られてきました。そのためもあって彼は強い男である自分に対する自信を持っていたのです。
しかし年齢を経てそんな自分を省み「本当に自分はこれでよかったのか」という疑問が生じ焦りと不安は募り苛立ちは強まっていくばかりだったのでしょう。
王族でなくても普通に年配の男性はよくこんな状態になって周囲に当たり散らすことが多いように思えます。
そんな時期に新しい司祭が登場し彼の悩みを聞いてくれる友人となった、というのは偶然なのでしょうか。
人生は時に不思議です。
男らしさを振りかざしていたフィリップが非常に不幸な男だったのに司祭に「ヘルプミー」と言えたフィリップはまるで重荷を下ろした人のように清々しく笑うことができてしまうのです。
そういえば少年時代にも同じ話がありましたね。寄宿学校で門作りを命じられ、一人きりで門を作ろうと意地を張っていたがどうしても鉄製の重い門扉を担げない。ついに音を上げて「手伝って」と頼むと学友たちがあっという間に門扉を取り付けてしまった、というエピソードでした。
長い間にその気持ちは忘れてしまったのでしょう。
このドラマを観てすぐに安冨歩氏が語っていた「助けてください、と言えたとき、あなたは自立している」を思い出しました。
フィリップ殿下が「助けて」を言えた時、彼はほんとうに自由に歩き出せたのではないでしょうか。
多くの人に見て欲しい良いドラマでした。
シーズン1・2の若きフィリップさん、凄く好きでした~w悪い男だけど好きだったw