ディズニーの世界を変えた女性たちの知られざる物語
というキャプションが本書を説明しています。
1934年にビアンカという女性がウォルト・ディズニーに手紙を送ります。その後の面接でウォルトは彼女の才能を認めビアンカはディズニースタジオシナリオ部門の初の女性スタッフとなるのです。
仕上げ部門には女性が大勢いるのですが作品の基盤となるストーリー会議には男性のみしか入れなかったと本書には記されています。
が、男性のみの職場は一人の女性にとっては過酷なものでした。続く女性アーティストたちもまた性差による苦難を思い知らされていくことになります。
本書に書かれている内容はどの国でもまたどの職種でもその程度の差はあれこれまでそして現在でも女性たちの苦悩であるのでしょう。もちろん男性にとっても苦悩であると思われます。
ディズニーは『アナと雪の女王』という女性監督による名作であり大ヒット作を生み出しましたが日本ではアニメでも実写でも映画監督で突出した女性は現れていないと言っていいでしょう。
とはいえ小説家やマンガ家では日本でも優れた女性ヒットメーカーは数多くいるのですからアニメ監督の名前に女性名が並ぶのもそう遠くはないと期待します。
ナサリア・ホルト氏による本書は実をいうと私には非常にわかりにくいものでした。
長いディズニースタジオの歴史を一冊にまとめるのは難しいものであるでしょうし翻訳の影響もあるとはいえ散漫な印象を感じました。
本書を読んでよかったと思ったのはイラストレーターのギョウ・フジカワ氏を知れたことでした。
日系アメリカ人女性ギョウ・フジカワ氏の名前を私はまったく知りませんでした。
彼女のイラストは上のものでもわかるとおり多様性を訴えたものであったと本書にも書かれています。
当時のアメリカの児童書は白人向けのものがほとんどで有色人種を描くことにクレームが入ったと言います。
しかし彼女はこれに屈せず様々な人種の子供たちを同じ世界に描いています。上の絵を見てわかるとおり皮膚や髪の色合いは違えどその顔立ちには大きな差をつけていません。こうした配慮に彼女の人格を思わせます。
本書でウォルトがビアンカの描いたイラストボードを破り捨て「女はすぐ泣くから困る」と吐き捨てる冷酷な場面が出てきて驚かされますが、戦時中の日系のギョウ・フジカワ氏に対しては「心配していました。あなたはアメリカ人ですよ」といたわる言葉があり日本人としては嬉しく感じました。
両親とも日本人の移民だった彼女はそれまでは日本人でないふりをしたり中国・韓国の混血であると言い逃れていたといいます。
ウォルトのこの言葉を聞いてギョウ・フジカワ氏は「私はアメリカ人です」とだけ言うようになったのだそうです。
ギョウさん自身はニューヨークにいたため無事だったそうですが、両親はアーカンソーの収容所に送られてしまうのです。
彼女はスパイと間違われてしまう危険も顧みず中国系のファッションと偽名を使って両親に会いにいったりする勇敢な女性でもありました。
ギョウさんの映画を作って欲しい、と思ってしまいます。
ギョウ・フジカワ氏はイラストレーターでディズニースタジオにどれほど関係していたのか、まだよくわかっていませんが彼女の存在を知っただけでもこの本を読む価値はありました。