ガエル記

散策

『他人は地獄だ』鑑賞完了

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凄まじく面白かったです。確かにこれを途中でやめるのは無理ですね。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

色々な意味でも凄い作品です。

こうした異常な連続殺人、という作品は世界中にそして韓国製にも数えきれないほどあります。

それらの特徴としてはいたいけな少年少女が犠牲になるとかおぞましい手法での殺人とか様々な条件で悲劇を盛り立てていくものでしたが本作の殺戮手法は刃物をぶっ刺す的な単純なものであり殺されるのは中年男女で美学を追求したものでもない。

且つ今までよく作られてきた(愛する人を殺されたというような)凄まじい過去の恨みからの復讐劇でもないのです。

つまり至って「シンプルな殺人」であることがかえって新鮮に思えてくるのです。

 

凶行の現場もほぼ一つの建物の中でおおがかりな仕掛けもなければ金のかかったアクションシーンも華やかな武術場面も見られません。銃器はおもちゃのピストルだけで使われる凶器は包丁やスパナのような周囲にあるものです。

こうした条件で10話に渡って他にないほどぞっとする殺人ドラマが作れるのは原作マンガと脚本が優れていたからなのでしょう。

 

主人公が発した「なぜこんな殺人を?」の問いに殺人鬼は「人間というのはそういうものだ」と答えます。「少しでも弱いものを叩き苦しむ姿を楽しむのだ」と。

確かに殺人というのではなくてもなにか事が起きて「弱そうなやつをいじめられる」と認識した途端大勢がよってたかっていじめ続ける事例を何度も目にしてきたはずです。

そしてそうしたことに自分がどうすればいいのかはよくわからないままなのではないでしょうか。

本作はまさにそうした感覚で進んでいきます。

主人公ジョンウは釜山からソウルに上京してきた普通の青年です。

親切な先輩の会社への就職も決まっていますが住居探しに手間取ります。

手持ちが少なく一番安価だった考試院(コシウォン)に仕方なく入ることにしますがその場所はまさに「地獄」だったのでした。

 

釜山を出る時に母親から言われた「人に気を付けて。一番怖いのは人よ」という言葉をジョンウは体験していくのです。

 

鑑賞後、本作の説明を見るとドラマと原作はほぼ同じように作られているようでしたが大きく違うのは原作にはないキャラクターがあってそれが歯科医のソ・ムンジョだというのです。

ドラマで重要なこの配役がマンガには存在しない、というのが不可思議です。

彼のセリフに「お前は僕を殺せない。なぜならぼくは何人もいるのだから」という意味の言葉がありました。そのセリフ通り彼が殺された後にもエレベーターの中に彼が立っている姿が映されます。

彼は『ツインピークス』のボブなのではないでしょうか。

ボブはむさいおっさん、というかんじですがそれを他にないほど美しい青年にするところが韓国映画ドラマの真骨頂でもありますね。

 

連続ドラマの怖ろしいところはその長さにもあります。

映画ならどんなに長くても3時間でしょうけどドラマなら計10時間以上もその世界に浸らねばなりません。

この狂気のコシウォンに主人公と同じく何度も入っていかねばならなくなるのです。

そこへ戻れば必ず恐ろしいことが起きると解っていながらです。

ただただ殴られ続けられる単純性、原因も理由もわからないまま(いやありはしないのですが)狂気を耐えるしかないうちに自分の狂気を引きずり出されてしまう。

怖ろしいドラマを作り上げてしまったものです。

 

『他人は地獄だ』という言葉がサルトルだというのを今回認識しました。