ディズニー+に加入して「なにも観るものがない」とブツブツ愚痴を言っていたのですがこの一作ですべて払拭されました。本作を観るだけでも十分な価値があります。
そうでもなければたぶん出会わなかったのかもしれません。それを思っただけで後悔しそうです(いや観たから大丈夫)
原題は『 Saving Mr. Banks 』このタイトルだったらもう少し気になってしまう可能性はあるのですが。
さてネタバレしますのでご注意を。
『メリー・ポピンズ』の作者パメラ・トラバースと映画化を望んで20年ものあいだ承諾を得られなかったウォルト・ディズニーとの戦いのドラマでした。
私はディズニーという人にほとんどまったく興味がなかったし『メリー・ポピンズ』も先日やっと観たけどそこまで感動もしていなかったしなので作者の名前すら覚えていませんでした。
その二人のドラマに興味を持つわけもなく期待など一ミリもしていませんでした。
ただこの裏話については少し前に岡田斗司夫氏による『メリー・ポピンズ』評を聞いていたので少しだけ知っていたのですがこの映画を観てしまうと岡田氏の批評のイメージが変わってしまいます。岡田氏はこの映画はご覧になっているのでしょうか。
とはいえ知っていたのはディズニーが『メリーポピンズ』の映画化を娘さんと約束したのに原作者の承諾が得られず20年経ってしまった。つまり幼かった娘さんはすっかり大人になってしまったのにまだ約束を果たせずにいた、ということだけです。
そこから約束通りに映画化した経緯がまさかここまで激しい戦いになっていたとは思いもよりませんでした。
最初、高飛車で頑固なトラバース夫人(夫人といっても独身のようでこの名前は芸名?ペンネームなのですね。そこから不思議なのですがその種明かしもあります)の意地悪な態度にあっけにとられてしまうことになります。
イギリス在住のトラバース夫人は本の売れ行きも良くない上に仕事もはかどらないらしい。友人はそんな彼女を心配してディズニーとの映画化契約をすれば収入もあるのだからと宥めるものの彼女は頑として譲らない。
せめて費用はディズニー持ちのアメリカ行きだけでもという勧めを受けてトラバース夫人は「意にそぐわないなら絶対に契約はしないわ」と意気込んでアメリカと飛ぶ。
出会う人皆を素っ気なくあしらうトラバース夫人はディズニースタジオに到着してもその姿勢は何ら変わらず、温かく迎えるスタッフに冷たく当たる。ディズニー自身にも容赦はしない。
エマ・トンプソン演じるトラバース夫人に目を奪われました。
まさかこんな強気で出会った人をガンガン殴りつけていくような人だったのでしょうか。しかし最後に流れる当時の録音テープから流れてくる声の調子はまさしくエマ・トンプソンが演じたつんけん声でした。
絵に描いたようにフレンドリーなアメリカ人と木で鼻をくくった如くのイギリス婦人の対比が面白くて面白くて。こんなに面白い映画は他にはそんなにないと思います。
最初はあまりにも手ひどいトラバース夫人の態度にむかついたであろう映画スタッフたちは実は彼女が真剣に作品に打ち込んでいることを理解します。
映画作品のなかのバンクス氏がいかにもな悪役キャラになっていたことにトラバース夫人は怒りを爆発させます。
「なぜ彼をこんなにひどい男にしたの?全世界にバンクス氏の悪口を言いふらすつもりなの?」
バンクス氏はトラバース夫人にとって愛する父親の姿だったのです。
そしてその姿はウォルトにとっての父親像でもあったのでした。
怒りをぶつけられたスタッフたちは彼女に謝ります。そしてバンクス氏は単なる「嫌な父親像」だけではない人間味ある人物に描かれなおされたのです。
この話は凄く納得できました。
様々な作品の中では時にあまりにも極端な善悪に分かれたキャラクターが登場することがあります。私はそうした作品が好きになれませんでした。
本作はその思いを肯定してくれたように感じました。
おかしいのはさすがのトラバース夫人はそれでもあっさりとは承諾してくれずさらにいちゃもんをつけてきます。
今度はウォルト自身が海を渡り(飛行機で)私たちの父親と私たち自身を許しませんか、と問いかけるのです。
これでトラバース夫人も映画化を許したのでした。
トラバース夫人が魅力的ですっかり虜になってしまいました。
ウォルトやスタッフとのやりとりも良いのですがもう一人専属運転士との交流がとても素晴らしいのです。
後日談的な映画発表パーティエピソードも泣き笑いです。
明日は絶対にかつての『メリー・ポピンズ』を観ずにはおられませんね。