ガエル記

散策

『主戦場』ミキ・デザキ

いきなり『主戦場』の配信が表示され慌てて観てしまいました。

が観始めてすっかり時機を逸してしまった感が心に迫ってきたのは否めませんでした。

この配信もさらに遅れてはますます観客が離れてしまうことを恐れての判断なのでは、と考えます。勿論それは正しい考えでしょう。観る側もできるだけ早く観たほうがまだ批判の気持ちが残っているのではないでしょうか。

 

とはいえ観る価値のあるドキュメンタリーであるのは間違いありません。

本作中「歴史修正主義者」と称される人々にここまで赤裸々な証言をさせた技量に驚きますし畳みかけるような編集も痛快です。

しかし本作が話題になった頃は本当に彼ら歴史修正主義者が活躍しSNS上も荒れ果てていたのですが今現在はどうでしょうか。

安倍首相は念願の(と言われる)結局憲法改正もできず辞任しその後思いもかけない事件「統一教会信者の子どもからの暗殺」で他界します。

統一教会は韓国の宗教です。ここでネトウヨたちが立ち上がるのか!という思惑はまったく的外れで(とは思っていましたが)彼らネトウヨはこの事態になんの抗議声明も出さず静まり返ってしまいました。

従軍慰安婦問題、徴用工問題の際にあれほど喚いたネトウヨ歴史修正主義者たちは敬愛する安倍元首相の暗殺を導いた韓国宗統一教会には沈黙してしまうのです。

 

これはいったいどういうことなのでしょうか。今こそ彼らは騒ぎ立て「韓国の宗教が我らの安倍氏を死に至らしめた」と抗議してもおかしくはなかったのです。これは歴史修正ではなく事実なのですから。それとも歴史修正主義者は真実も修正するのでしょうか。

 

結局、従軍慰安婦問題へのネトウヨそして本作に登場する歴史修正主義者の考えと行動には何の意味もなかったのではないでしょうか。

ただただ安倍氏をリーダーに掲げ自分たちで甘い夢を見ていたかった。そのリーダーが失われ夢が見れなくなってしまったのかもしれません。

本作でのラスボスと言われるのが加瀬英明氏らしいです。私はまったく存じ上げなかったのですが(この方も誰の本も読まないという人なのですが)このラスボス氏が去年2022年の11月に亡くなられています。

つまり歴史修正主義者のリーダーとラスボスが亡くなってしまっているのです。これでは彼らはもう帆を失った船同様でどこにも行けないのです。

 

私たちがよく名前を聞く杉田水脈氏はかつてあれほど差別発言を繰り返していたために今現在は政務官を辞任した形となっていて映像を見ても侘し気に見えます。

 

つまりはなんだったのでしょうか。

 

このドキュメンタリーを観て「さらに分断を焚きつけている」という感想を持った人もいたようですがこれはイデオロギーの戦い、などというものではなかったのかもしれません。論戦で勝ち負けが決まったというより年を取って亡くなり、時代が移り変わって排除されていなくなりすっかり力を無くしたのです。

 

歴史が移り変わる時、何かしら腐った膿のようなものが出てしまうようにも感じます。

 

書いてきて自分だけで「なるほど」という思いにも至りました。

『主戦場』というのはなんの戦いだったのか。

歴史修正主義者」たちは結局流れゆく「歴史」に勝てなかっただけなのかもしれません。