ガエル記

散策

『火狩りの王』その3

wowowオンデマンドにて#5#6鑑賞しました。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

前回でも書いたように極めて女性的に物語が進行していきます。

他の方のレビューを見ると思ったとおりに「つまらない。これが宮崎駿だったら最初からアクションシーンで観る者をぐいぐい引きずり込んでくれたはずだ」「アクションシーンがまるで迫力がなく止まった絵になってしまってがっかりする」などといった言葉が並んでいるのですが製作者はまさしくそこを狙っているのだと思っています。

 

これまで日本のアニメは男性的動的な作品を好み目指し続けてきたと言えます。その代表こそ宮崎駿であり理想のヒロインはナウシカだったのではないでしょうか。

頭脳明晰で優れた運動能力を併せ持つ美少女であり非常に能動的で攻撃的です。

対して本作のヒロインはそのどれも持っていません。はっとするほどの美少女でもなく才能はまだ見えていません。今回その片鱗がやっと現れましたが本人はまったく自覚していないのです。

合わせるように物語も静的で進行も遅いのです。躍動感も乏しくキャラクターの魅力も乏しく感じます。

これではなかなか観る者がどっと増えることはないのかもしれませんがそこにこそ価値があるのかもしれません。

 

私世代の幼い頃のアニメは世界を征服しようとする「敵」と戦うのが物語でしたがいつの間にかその戦争に負けてしまっていました。

今現在では世界戦争その後の世界を描くのが当たり前になっています。

いったいいつ負けたのか。

いや終わったのか?

 

世界大戦後の世界をどのように描くのかが作り手の思想を示していくことになります。

戦後もさらに激しく厳しい闘争の世界になるのか。

男性的な作品の多くはこの道を選び。

乏しい資源を頼って細々と生きていく道を模索するのか。

本作はこちらの物語ですね。

 

これまで目指されてきたアクティブな進行・絵作りをあえて手放していく手法なので「下手」と評価されてしまうのかもしれませんがこれでやろうと決意した押井守氏に敬意を表したいです。

宮崎アニメだけが正解ではなく満点でもない。