ガエル記

散策

『タミー・フェイの瞳』マイケル・ショウォルター

主演ジェシカ・チャスティンが本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞した、などという記憶はまったく残っていなかったので「いったいなにこれ」という鑑賞でした。

冒頭から主人公が何やらとんでもない事件を起こしたことが表されしかもその人がとんでもなくケバイおばあさん(!)だと示される。

ということはこれは実話なのだろう。いきなりネタバレなのだからたぶん皆が知っている(本国アメリカでは)というのでなければこの始まりはないだろう。

後でやはり本作は実話で実際にアメリカで大人気だったTVタレントだったことが解ります。

それもキリスト教伝道師TVタレントとして一世を風靡した人物だったのでした。

 

レビューを見ると「宗教がテレビで大人気となり政治まで動かすとは日本ではありえない解り難い」というのが散見されますが無論今現在進行中の統一教会問題は別としてもオカルト的もしくは神秘主義的な僧侶や占い師的人物がTV番組を席巻してきた事実はあるわけでやはり人々は面白おかしく癒しを与えてくれるタレントを欲してしまうのはありがちなのだと思います。

 

ネタバレしますのでご注意を。

 

 

さてこの映画この主人公もいわゆるアンチヒーローいやアンチヒロインでありますね。

どうしても映画を観る人は主人公に理想を求めて観始めます。

ここまで露骨にヘンテコなヒロインであればさすがにまさかこの女性が製作者にとって憧れの女性の描写とは思わないでしょうが、それでもヒロインに美徳を求めてしまう気持ちは(そしてヒロインの恋人にも)拭えないようです。

 

ヒロイン・タミーはいわゆる毒親に育てられました。

母親に人格を否定されそれでも自己を守ろうとする幼い彼女の姿は悲しいです。

それからも彼女はずっと母親を欲しながらも拒絶され続けます。タミーの過激な宗教心は母親の愛情を手に入れたいからでもあったように思えます。

しかしその努力は歪んだ道を歩ませ続けていきます。

夫となるジムも彼女に負けず劣らぬ不思議人間ですがその生い立ちは散漫になるためか省略ですね。

 

タミー・ジム夫妻は強烈な宗教心で人々を惹きつけ大きな富を手にして裕福な生活を送りますが所詮は付け焼刃であるわけでふたりはその富を維持するために自転車操業をし続けることになっていくのです。

この辺は現在のユーチューバーが人気を得てスパチャで儲けていく状況を思うと解りやすいように思えます(違うか?)スパチャで一時期に大儲けしてもそれを維持するためには次々と何か面白いことをし続けなければなりません。

それを続けていくのは神経を擦り減らすことなのでしょう。

 

タミー・フェイの人生には憧れませんし憧れる人は少ないでしょう。彼女がなぜこんなに過酷な人生を選択していったのか。

ふたりが立ち上げたPTL=The PTL Club別称 "People That Love"に「愛」という単語が入っていることに胸が塞ぎます。彼女にとってはそれは母からの愛だったのではないでしょうか。

しかしその愛はタミーが求めていたようにはついに手に入れられなかった。

 

やがてタミー夫妻の野望は終わり財産も失い母親が亡くなります。

この時タミーが母の遺体からメガネをくすねたことでも母親への心残りを感じます。

ここで父親がタミーに毛皮のコートをこっそり渡すのです。それは成功したタミーが母親に買い与えたものでした。この時だけ母親は渋りながらも満足な表情をタミーに見せたのでした。

 

落ちぶれて貧しくなり年老いて化粧のお化けのようになってしまったタミーに再び人々の前で歌う機会が訪れます。

最期の歌を聞いて彼女の人生を思うとやはり感動せずにはいられません。

どんな人生もまた人生であり神からの祝福があるに違いありません。

人々が「悪人」と罵ってもやはり神はあるのです。

もちろん私が思う限りでの「神」ですが。