次に読みたくてうずうずしていたのがこれです。今NHK大河ドラマで放送されているのもありますが(そのドラマはどうしても食指が伸びず観ておりません)なにより徳川家康って何なのかが気になっていてこの機に読むことができるのは幸いなるかなであります。
ネタバレしますのでご注意を。
なにしろ豪快な『三国志』を読んですぐこの物語なのであまりの違いにさすがに戸惑います。
『三国志』が男の世界なら『徳川家康』はきわめて女性的というとなにやら差しさわりがあるかもしれませんが戦国時代と言いながら肉弾戦ではなく誰と誰を番わせるかというような話ばかりしている上になにかと「忍従忍従」と言ってるのも面白くない。
が、まあ読み進めていくうちに次第に我が脳も少しずつ大陸戦から島国戦に切り替わって行けたようです。
興味深いのは(観てないと言いつつも)現在放送ドラマでは当然徳川家康自身が最初から登場するのに本作はかなり長く家康の父親それもまだ16歳というところから始まるところですが、これは大事なことでした。
徳川家康が幼い頃人質として今川家で耐え忍んで過ごしたというくらいは知っていたのですがその父親もまた「お家のため」と言われ望まぬ縁談を押し付けられさらには引き裂かれてもまた忍従しなければならないと苦悩のうちに死んだような内省的な男性であったのは家康のDNAとして考えなければならないのでしょう。
もちろんこの作品は創作された時代で考えられたことですが今から書いていくことはあくまでもこの時代に描かれた内容として考えていくことにします。
『三国志』からこちらへきて少しほっとしたのはかなり女性の数と活躍が多くなったことではあります。
『三国志』の勇猛な男性たちを見ているのはなにより楽しいことではありましたがいかんせんあまりにも女性の登場が少なすぎることでした。『徳川家康』では時代がまったく違うこともありましょうが女性のかかわりが非常に重要になっていくのはうれしいことであります。
そもそも物語が家康の父松平弘忠が側室とその子どもがいる身で水野家から正妻を娶るのを毛嫌いするところから始まります。これをどうしても嫌だと突っぱねることもできずお家のためと言われ渋々受け入れることから始まるわけです。女性的な始まりです。
その嫌な縁談をねじ込んできた水野忠正が悪の権化かというとそういうわけどころか彼自身がかつて有力だった松平家の清康から自分の愛妻を「くれぬか」と言われ離別したというおぞましげな過去があるのです。その妻は二十三歳で五子の母でもあったという。
なんという気持ちの悪い世界なのでしょうか。
なので松平弘忠にとってこの正室は義妹になるという幾重にも不気味な話なのですが島国日本のなかではこうした狭い人間関係の血筋のやりとりが繰り返されてきたのだろうと怖気を振るってしまいます。
しかしここで水野忠正がいう「人情をわすれたことは策に似て策にならぬ」というのはとても大切なことだと感じました。
しかしここに忠正の息子信元が父に逆らう因子として登場するのも面白い。
そしてさらにその反抗分子のつながりに竹ノ内波太郎という不思議な名前の人物が登場する。
熊の若宮と呼ばれる前髪立ちの若者。南朝の正統が再び世に出る時のために得難い古文書の数々と秘法を預かる竹之内宿禰の末裔なのだという。
(この人物はどうやら架空の設定のようだけど実際にもこういう不思議な存在がいたのではなかろうか、と想像するのは楽しいものです)
織田信秀、濃い。
巫女の間諜を育てるとは。
さて岡崎城の正室となった於大は綿の種子と職機を持ってきたという。さらにチーズを弘忠の食事に加えることですっかり健康になった、というのが面白くてしかたない。確かにチーズは良いだろうね。
とりとめのない『徳川家康』感想の始まりになりました。これからしばらく『徳川家康』を楽しみたいと思っております。