さてさっそく読んで参りましょうか。
ネタバレしますのでご注意を。
「愛執」(1969年プレイコミック)
極めて端正な美形主人公が多い横山光輝作品の中で珍しい不細工系主人公。
しかも冒頭から「男は見るからに醜男で背も低く風采があがらなかった」と説明されてしまう。
このブ男・作蔵は美しい未亡人志乃が夫を殺害した男を仇討せんと旅をする供をしている。
その旅はもう三年も続いていた。
作蔵は美しい奥様にお仕えすることに異様なほどの喜びを感じている。
ある宿で作蔵は仇討の男を目撃してしまうのだが未亡人志乃には伝えず密かに男を殺害してしまうのだ。
そして作蔵は何もなかったかのように再び愛しい未亡人志乃と共に仇討の旅に出る。
この作蔵を美形にするという方向もあっただろうが横山氏の意識としてはこのような暗い思いを抱くのは醜男ということになるのだろう。
とはいえ『戦国獅子伝』のかっこいい主人公も死んでしまった恋人を探し続ける少女に事実を話せないでいるのだったがあれは原作ありだったからと思える。
このような陰湿な性格は横山マンガでは醜男なのだ。しかし剣の腕は立つ。なかなかよろしい。
「蝦蟇」「浅い川」「死者踊り」(1973年漫画ゴラク)
一話目とは少し違う醜男物語。(いやあんまりブオトコブオトコ書きたくないんですが)
見た目は醜悪だが才能があり女性に対しても引け目がない。そして幻覚を見せる妖術を使う。
なんとなく『隻眼の竜』を思わせる、と思ってたら「死者踊り」ではほんとに山本勘助出てきた。不細工な勘助である。(ほんとごめんよ、美醜ばかり言って)
『隻眼の竜』の方が後に描かれているからこのあたりで構想が固まってこられたのかもしれない。妖術使いは別人だ。
『隻眼の竜』では山本勘助がめっちゃ美形になってるからやはり長編主人公は美形になってしまうのだろう。
「笛」(1969年ジョーカー)
なんとなく白土三平を思わせる作品。
冒頭で「いまだかつて失敗をしたことのない暗殺専門の偉大な忍者がいるという。しかし誰もその顔も姿も見たことがない」と始まる。
やや足りないような感じの怪しい男がとある屋敷で捕まるがどんな拷問をしても何も言わない。
仕方なく放免されるが実はその男が暗殺者だった。男は笛の音を聞くと殺してしまうのだ。
そして最後にも「いまだかつて失敗をしたことのない暗殺専門の偉大な忍者がいるという。しかし誰もその顔も姿も見たことがない」と終わる。
謎めいた作品だ。
いったい男は本当はまともなのか。そして「誰もその顔を見たことがない」というのはこの顔自体が偽物ということなのか。そういう意味じゃないのか。
様々に解釈できそうだ。
この五作品、横山光輝醜男シリーズだった。(ほんとすまん)
次はいきなり物凄い美形です。
乞うご期待。