これまで一巻で一話となっていましたが第三話目で3・4巻と続きます。
ネタバレします。
2巻で一話だとそれまでと違って内容が薄まるのかと思うなかれ。より複雑になっていく。
とはいえ「事件の犯人」というのは普通に読んでいくと初見ですぐわかってしまうし作者も早めにばらしてしまうのだが「コロンボ方式」とでもいうのだろうか、犯人を知りつつも知ってるからこそ物語が面白く思える見せ方となっている。
これも前に言った「もっと派手な種明かし演出」より「じわっと地味な語り口」を作者が好んでいると思えるし私もそちらの方が居心地がいい。
が、複雑ゆえに読み手も混乱してしまうのだがこの話、破綻しているようだ。
実直な市警オドはケルンの富裕層の連続殺人事件を捜査することとなる。関係者がいがみ合い争う中で身分的には低い市警オドの捜索は困難をきたす。
豪商エフナー家では後継者たるヴォルフが死んで三年経ちその父親は悲しみ(と陰謀で)寝たきりとなっておりヴォルフの嫡子ヨーストはぼんくら息子。その母と義妹はケンカばかり。ヴォルフの弟アントンはなにやら義姉とよからぬ関係であるらしい。
という雑多にやや気持ち悪い様相を呈している。
読者は冒頭でアントンの記憶として富豪の後継者ヴォルフとその庶子である(つまり正統ではない)少年ティルの逸話を見せられる。
後継者ヴォルフは正統でないとはいえ息子ティルをいわば下男のようにこきつかっていたが彼ら二人は乗っていた船の火事で死亡した。
なのでこのヨースト殺しはむしろアントンにすべきだったのではと思うのだがオド推理ではすべてティル(ニルス)の仕業となっている。
つまりアントンが後継者を狙うための連続殺人を遂行していたのにとどめとしてティルが登場する、の方がよかったのではと言う気もする。
でなければアントンとティルが手を組んでの犯行とか。
と私には思えたのだが見たところそういう感想はないようだ。
それは本作の面白さが謎解きの部分ではなく青池氏らしいキャラクターの描き方にあるからとしかいえない。
確かにそういう部分を穿るよりもカイ修道士が目をキラキラさせる話とかメンデル市長の華やかなコスチュームを楽しむ方に忙しいのだ。
さて最後、果たしてティルはどうなったのか。
以前の船火事でもティルは生き延びている。
最後の船火事でもティルがどうなったのかという決定的な描写はない。
そしてオドはティルの呼び声を聞いたように感じて「空耳か」と考えるがもしかしたらという仕掛けにもなっている。
たぶん彼はしぶとく生き延びているのだろう。