
ネタバレします。
vol.17 火事
金太とお祖父ちゃんのつながりを描く。
寿命を感じているお祖父ちゃんに新聞配達をして学費を稼いでこの土地でずっと暮らしたいと金太は告げる。
金太の一途な表情がとても良い。
幼い頃はなんと純粋なんだろう。
お祖父ちゃんは死ぬ前に風景を見ておこうと思ったのか金太と一緒に近所を歩く。
戦争のためにいつの間にか飛行場が作られていた。
「七生報國」という壁の文字。
そんな時、火事の知らせがあり金太は走っていく。
浮気した女房に怒り家に放火した男が捕まった。
その火事を見てお祖父ちゃんは高熱に倒れた。
その夜、再び火事が起きた。
その炎を見ながら金太は「もっと燃えろ、いつまでも燃え続けろ」とつぶやく。
vol.18 夏忌
お祖父ちゃんが危なくなり近所のおばさんたちが金太の家に世話をしに来てくれる。
友達がお見舞いにと大きなスイカを持ってきてくれた。
ついでに母ちゃんを呼びに来たらしいがその母ちゃんは「晩飯までには帰ると父ちゃんに言っとくれ。もう男尊女卑の時代ではねえんだ。女も人間として生きる権利をもたねばならん」と息子に伝える。
金太はその友達とビー玉を弾いて遊んだがその子の大事なビー玉が「いやな家」の庭に入ってしまう。
その家には気味の悪い女がいるのだという。
金太がビー玉を探していると窓から細い女の顔がのぞき「クキキ」と笑った。
急いで逃げ出した金太に「坊ちゃん」という声が。
金太は部屋に入りお祖父ちゃんに死に水を含ませた。
苦しまない静かな最期だったらしい。
女たちはいそいそと葬儀の準備を始める。
下の始末も厭わずしてくれるのだ。
金太は外へ出た。
さっきの家を見に行くと窓辺にあの女がいてビー玉を持ってながめていた。
「オレのだよ」というと女は投げてよこし「クキキ」と笑う。
お祖父ちゃんは金太にお金を残しておいてくれた。
葬式の費用もあった。
近所の人たちの問いに答えているとあの「黒マント柳川大雲」が訪ねてきた。
金太が「苦しまない最後でした」と伝えると「バカ、苦しまぬはずがあるか。おまえのために頑張ってたんだ」と拳固をくらわせる。その痛みを金太は救いだと感じる。
vol.19 祭りの準備
戦争で中断されていた夏祭りがかえってきた。祭りを三日後に控えた関東平野に町の青年たちの稽古の笛が流れ、子供たちはナフタリンの匂いが沁み込んだ浴衣を着て走り回った。
大平福太郎は祭りの世話をしていた。
その中で人々から「福太郎さんは”オカマの子”も見捨てないで面倒見ている」と評判があがったらしい。
その銀子は福太郎に髪を切られて以来「女のように伸びるまで」納屋にこもりきりだという。
やっと少し髪が伸び与えられたズボンをスカートに縫い直して銀子は外へ出た。
そこで金太の祖父が死に柳川大雲と共に東京へ行くと知る。
銀子は女の子が来ていた浴衣をはぎ取って金太の後を追いかけた。
大雲は金太に「この町は好きだったか」と尋ねる。
「うん」
「それならばこの町を二度と訪れないことだ。もう一度訪れた時はここはおまえにとって廃墟となってしまうだろう。だから汽車が来るまでよーく見ておけ」
金太は「さよなら」と涙を流す。
銀子は必死で金太を追いかけたが汽車は発車してしまった。
大雲は金太の抱えた遺骨にこれからの思いを話しかけた。
そして金太に「東京にはおまえと同い年の浮浪児がたくさんいる」という。
「怖いところなんだな、東京って」
「心配するな、ここと同じ関東平野のなかじゃねえか」
銀子は泣きながら汽車を見送った。
vol.20 マリリン・モンロー
昭和29年2月1日マリリン・モンロー来日。
新年の皇居参賀につめかけた38万人の中に大雲と金太もいた。
大雲は右手、金太は右足をケガしてしまったのだ。
大雲は筆が持てず左手では描けず弱っていた。
金太は15才、ニキビができた中学生になっている。
そこへ「S・M社会」の吉原氏が女性を伴って訪れた。
大雲はその女性を気に入ったらしい。
筆を口にくわえ表情を描くが輪郭は描けないと金太に描かせた。
「駄目だなまだ・・・やはり女を知らんといかんな」と金太に酒を用意させる。
金太がお燗をつける間、自慰をしようとしてるのを女に見つけられる。
女は冷を飲んで出て行った。
女はもと子爵令嬢らしい。
しかし今は新宿二丁目の女である。
編集長は緊縛の良さがわからないという。
女が咳きこむのを見て大雲は前借した原稿料を女に渡した。
金太はケガした足で女を駅まで見送る。
女は金太に「さっきの続きをしてあげる」と口でした。
「薬を飲むより身体に良いってもんさ」
別れて8年、何故か銀子を思い出す。
vol.21 嗚呼、玉杯に花うけて
本校随一の美女という称号で登場する「山根淳子」
上村一夫を読み始めるきっかけとなった『完全なる答案用紙』における「学校一の美女」は「山根順子」だった。
美女の造形がほぼ同じなのは上村美女として当然ではあるが名前までほぼ同じというのはなんだろう。
金太もまた山根淳子の気を引こうとして「傷ついた少年」を演じてみせた。
ところがこの美女には秀才の「松橋茂」(あのマンガでは松村だった)と教師「ツマリ」という「ライバル」がくっついていた。
だが金太はひとり校舎外でカツパンと牛乳の昼食をとっていたところ山根に近寄られハーモニカを吹いて気に入られてしまう。
一緒に下校して金太は彼女を家に連れて行く。
その様子を同級生や松橋にまで見られ嫉妬されるのだった。
帰宅すると山根は大雲の仕事場を覗き見して興奮し「両手を縛ってほしい」と言い出す。「松橋君の幼稚さを捨ててあなたの成熟さをとるわ」
しかし金太が足のケガのふりをするのを忘れて歩いてしまったのを山根淳子に見とがめられるのであった。
vol.22 赤線、青線、灯る街角
山根淳子は金太のケガの嘘を見破ってからすっかり彼を無視していた。
眼帯をした山根はまたもとの松橋の横に落ち着いてしまった。
金太は大雲の絵のモデル女性にモデル料を渡しに行く。
女性は味噌汁をご飯にぶっかけ金太にすすめた。
金太は辞退したが「先生なら黙って食べてくれるよ」という言葉に仕方なく口に運ぶ。
「どう?」という問いに「まあまあです」と答える金太。
「やっぱり駄目かなあ、子供を産まないと味噌汁らしい味噌汁は作れないのかなァ」
女性は大雲に誘われているのだという。
そして「あんたのお母さんになれば上手に作れるかしら」というのだった。
女性は金太を友達の店に連れて行き、おでんと酒をご馳走して帰って行く。
ともだちというおかみは金太を誘うのだった。
最後におかみが言った「ごめんね」という言葉に金太は吐き戻してしまう。
酒臭さにマスクを買い途中街頭テレビで力道山を応援する男たちを見る。
その金太の肩を叩いたのは山根淳子であった。
眼帯を外してみせる。
「あなたに教わったことを実行しているだけ」という。
そして「好きよ、でもおつきあいしてはいけないと思うの。とても危険な人だから」と去って行った。
金太は大雲の背中を流した。
「高校は出ておけ。わしもまだまだ学費ぐらいは出してやれる」という。
昭和二十九年、金太、非常に不健康に童貞喪失。
すべての話が昭和を物語っている。
私は「昭和の価値観」に嫌悪があるのだが「近代日本史」という学問として興味を持っている。
この時期に上村一夫を読み始めたのはそういう意義がある。
例えば葬儀の際の近所の女性たちのきびきびした活動でさえ「いいねえ」という美談には思えない。
むろん貧しさゆえにやむなく行動するしかないのだ。
そうした葬儀のあれこれが今はほぼ省略され葬儀すら行わず直に火葬してしまう時代になってしまった。全部ではないがそれも認められる時期になったのだ。
ここに描かれる濃密な男女関係もなくなった。
男女関係を描くのに「緊縛画」というものが選択されていることが象徴的であるように思える。