ガエル記

散策

『関東平野 わが青春漂流記』3 上村一夫 その2

ネタバレします。

 

 

vol.29 冬のゴム

金太は夢二の絵の中に母の面影を感じ徹夜で模写をした。

大雲は「責め絵」がうまく描けず弱り切っていたが妻が手にはめているゴム手袋を見てゴム製の服を女に着せることを考える。

妻は金太が模写したという夢二を好きだというが大雲は「ああいう女好きは好かん」と言った。

 

大雲は妻にゴム服を縫わせようとしたが針が通らないのだという。大雲はカッとなって妻を殴る。

妻は平然と「なにをそんなに焦っているのですか」と言い放つ。

 

作ったうどんを金太と食べながら妻は涙をこぼした。

金太は「痛かった?」と労わる。

「ううん、うれしいの。だってこんなに男の人に頼られたことってなかったんだもの。あの人ならつくれるかもしれない。かもしれないだけが男と女の愛を結びつづけるの。かもしれないためにお互いが必要だから」

金太は女性の優しさを感じ、男への献身でもあり、したたかな強さでもあり、何よりも母のぬくもりに近いような気がした。

 

金太は彼女の姿を母に重ねて絵を描いた。

金太にとっては母のっぺらぼうだった。

 

その頃、大雲は意地を張ってゴム服を縫い続けていた。

 

vol.30 除夜

晦日、金太はもらった壊れたテレビを修理して紅白歌合戦を見ようとして見れず。

年越しそばを三人で食べ始める。

大雲は風邪をこじらせ卵酒を造った。

 

大雲は妻の身体を縛りふたりはその喜びに泣いていた。

その様子を金太は見た。

ひとり外に出て寺に参る。

手を合わせていると男女のささやき声がした。

一緒に逃げてくれ、という男に抗いながらも迷う女の姿。

金太は何を祈っていいかもわからないまま手を合わせた。

 

除夜の鐘が鳴った。

 

 vol.31 正月ポルノ

金太は銀子と連れ添って歩いていた。

「あたし達、恋人同士に見えるかしら」

「おまえ身長どのくらいある?」

「160センチ」

「ちゅうと5尺3寸か」

「だめよ。メートルで言わなきゃ。尺貫法は廃止されたのよ」

「じゃあ6尺ふんどしはなんて呼ぶんだよ」

という会話がされる。この年、昭和34年1月にメートル法施行。尺貫法廃止さる。

(なんとこの年まで尺貫法だったのか。心配しなくても6尺ふんどしなんてもう誰も使わないから)

 

ふたりの目の前で女性の和服にいきなり何やらの液体をぶっかけて逃げ去る男がいた。

金太に言われ銀子は店で女性の和服の汚れを落としてやることになる。

ところがこの女性、銀子に手を出してきたのだ。

男とわかっても「男女」と寝てみたいと言い出す。

やむなく銀子は金太を読んで3人で交わることに。

すると突然女は月経が始まってしまい「生理の直前に男が欲しくなるの」と説明した。

金太はうんざりして出て行った。

 

帰宅すると庭では雪の降る中、大雲が妻を緊縛して責め絵を描いている。

 

性を芸術にまで昇華させようとする男と女がいる。

どんなに洗い流そうとしても落ちぬ汚れた性の匂いもある。

 

金太は先ほどの女の血を洗い落とそうとしていた。

 

 

vol.32 梅の宿

金太、なんとなく旅に出たくなり上野から汽車に乗り日が暮れたところで宿を探す。

訊ねた交番に折しもいた芸者梅子に宿を紹介してもらい一緒に行ったのだがそこで梅子を待っていたのはなんと有名画家「柳川大雲」だった。

 

偽物の大雲は本物より押し出しがよく堂々としていた。

喜んでいる宿の主人や梅子たちに言い出せずしかも偽物大雲は画家の卵だといった金太に酒を飲ませ「感動こそが素晴らしい創作を生む素材なのです」と説く。

いたたまれず酔いつぶれてしまった金太が目覚めた時、宿の主人と梅子は緊縛されていた。

柳川大雲は一か月の無銭飲食で逃げ出したという。

 

笑いをこらえて金太は部屋の窓を開けた。

月光に梅の花が美しい。

金太は感動でそれを描いた。

「あのニセモノ言うことだけはホンモノだったな」

 

vol.33 同世代

旅から帰宅した金太。

大雲夫婦は緊縛画を描いていた。

土産の会津の地酒に喜ぶ大雲。

そこへ警官が来て「強姦未遂の男を捜索中なのですが」という。

警官は帰っていったが妻は部屋の中に不審な男がいるのを見つける。

逃げ出そうとする男を妻はとどめた。

 

 

大雲は旅の宿で描いた金太の梅の絵の枝ぶりが悪いと𠮟りつける。

「梅の美しさを知ってから筆をもちやがれ」

強姦未遂男が「なるほど」というのを聞いた大雲は今度は男に強姦のやり方を教え込む。

男は「ぼくらの年代は汚らしい”性”に取り囲まれて育ったんです」という。「戦争に負けた大人たちがそのどうしようもない鬱憤のはけ口を性に求めたでしょう、パンパンガール、オンリーさん、カストリ雑誌にストリップ。”性”とはなにか?なんて考える隙間はなかったです」

男は昭和14年生まれで20歳だった。

金太と同い年だったのである。それにしては老けているな、と大雲は言う。

 

この青年を大雲は見込んでしまう。

子供時代から育てた金太ではなく突如現れたこの青年に自分の跡取りになってもらおうと決めるのだ。

(関係ないが今絶賛上映中の『国宝』(映画観賞はしてないが原作読んだ)を思い出す。このマンガではどちらも血のつながりはないのだが)

金太自身は大雲の後は継げない、大雲と自分は違う、と思ってはいたものの突然現れた同い年の青年が大雲に見込まれそして青年もその運命に興奮しているさまを見て複雑な気持ちが湧くのだ。

 

vol.34 山田クン

突如現れた金太のライバルの名は山田。

金太は山田を銀子の店に連れて行く。

山田は銀子を見て「男女?初めて見た。美しい」と感激し「それにはまずゲイとの性はどのようにして行うかを知らなければなりません」と言い出す。

山田クン積極的である。

しかし銀子はそのためには金が要るよ、ときっぱり。

山田クンはスケッチブックを抱えて外へ飛び出した。

 

ゲイバー「バラ」のママはモロッコへ完全な女になるための手術を受けにいったらしい。

銀子も手術してオッパイだけでもふくらますという。

銀子は金太の迷いに気づいている。

「先のことを考えすぎるんだよあんたは」という。

 

そこに山田が傷だらけになって戻ってきて金を出す。

盗んだのではなく街で似顔絵描きの真似事をしたらホンモノの似顔絵描きに見つかって袋叩きになったというのだ。

銀子はその根性に「うんとサービスしちゃう」と言い出した。

二階から銀子と山田の喘ぎ声が聞こえる。

 

街には似顔絵描きがいた。

帰宅すると大雲が絵をじっと見ている。

それは山田が描いたものだという。

妻は嫉妬しているのだと告げた。

 

金太は布団に入った。

「絵で食っていけるのかなあ、俺」

机には先ほど描いてもらったらしい似顔絵があった。

 

うむ?

これはどういう意味なんだろう。

大雲と同じように金太も山田に嫉妬を感じていて似顔絵描きも山田に嫉妬した。

だから絵を描いてもらった、ってことでいいのかな。