おすすめ機能に現れてちょいと読んだら止められなくなった。
読んだ皆さんが言われてますが横山先生にこんな作品があったとは。
1975年週刊少女コミック掲載作品。
ネタバレしますのでご注意を。
時期的に読んでいても不思議ではなかったのだが、これは全然知らなかった。漫画雑誌を買う人間ではなかったので仕方ない。
男性作者が女性向けを描く時は必ずと言っていいほど「美と若さ」が題材になりがちです。たぶんまあ確かにそれが女性の大問題なのでしょうがここでもそれが語られます。
しかも男性作家の描く男性が女性にそれが重要であることを否定はしないのですからより辛辣ではあります。
それにしても横山先生の描く女性・女子はとても魅力的なのにどうして描くのをやめられてしまったのか、本作品を読むと残念に思われます。
さて本作、とても面白い作品です。
少女ものであるためか、主人公は女子高校生、ハンサムだけどちょっとたよりない兄を心配してアフリカの危険地域へお供していくのです。いや、いくら何でも女子高生をそんな場所に行かせるってあるのか。
兄の名は加蔵春彦。カメラマンとして世界中を回っているのだけど色々な場所でなぜか同じような鷲の頭の形をした雲を見てしまうことで悩みノイローゼとなっていた。
帰国した際に出会った人妻・鳩子さんと恋に落ちてしまうのだが春彦と鳩子さんもまた互いにずっと前から知り合っていたという思いを抱いていたのだった。
この春彦君の軟弱な感じがとても良い。たしかにハンサム。
妹真理ちゃん、頭が良くてまっすぐな気性の女子。後ろのメガネ紳士がパパ。
春彦は旅先で撮っていた「鷲の形の雲」の写真を真理に見せて悩みを打ち明ける。
真理は学校でその写真を同級生に見せると
真理の同級生のおかげで春彦の悩みの鍵が解き明かされる。(関係ないけどこの男子もかわいいね)
彼の父親が風土病の研究(すごい)でアフリカに行った時同じ形をした山を見たというのだ。その山の写真を見せられた場所の話を聞いた春彦はますます気になっていく。
こうして加蔵春彦はアフリカの「鷲の頭」と呼ばれる山へ向かう決心をする。どうしてもそこへ行ってみなければならないと感じたのだ。
人妻であった鳩子は離婚を決意し春彦の後を追うと約束する。
そして春彦は妹・真理と共にアフリカへと飛ぶ。
ううむ。とにかく気宇壮大な話だ。
少女マンガはそもそも不思議話なものだけどこれはほんとにぶっ飛んでいる。1975年の少女コミックで女子高生のアフリカ冒険はあり得なさそうに思えるが実は1974年から同じく少女コミックで竹宮惠子『ファラオの墓』が連載されてたから案外不思議ではないのかもしれない。
本作においてのいわばヒロインは加蔵春彦である。春彦は何千年の時を越えてアフリカ
「鷲の頭の国」の不死身の女王に愛され求められ続けていたのだ。
横山先生作品はいつもあっさり明快だけどここでも春彦は「何千年も思われ続けられたことは男冥利につきる」という感想を持っていて吹き出しました。いやあイイ男は言うことが豪快ですな。
ちょっと先走りしすぎました。
春彦と真理はアフリカの危険地帯を必死で乗り越え念願の「鷲の頭の国」にたどり着く。
そこは女人国であった。男たちは子孫を残すために必要な時だけ女と会うことが許され役に立たなくなると殺される運命の国だ。そこに君臨する女王こそが不老不死であり類まれな美貌と魔力を持つ存在だったのだ。
そして不思議なことに加蔵春彦こそ女王が何千年も待ち続けた愛しい男性だったのだ。
かつて女王は貧しく醜い侍女だったのだが神のお告げを聞いて時の女王と密会する僧侶カクラテスを殺害することで永遠の美と若さを与えられた。が、その時女王はその僧侶カクラテスにかなわぬ恋をした。そして何千年もの間、カクラテスが転生することを待ち続けていたのだ。
加蔵春彦こそが愛しいカクラテスの生まれ変わりだった。
春彦君、ハンサムの宿命か。出会う女性と次々に恋に落ちる。そして人妻鳩子さんが何者なのかなぜ二人は互いに知っていたかに思えたかは明らかにされないのだが、たぶん鳩子さんがもとの女王だったということよね?
神の怒りに触れたはずなのにここで許されたのか。それにしても旦那がカッコ悪いぞ。気の毒っちゃ気の毒だけど妻の気持ちを引き寄せるんじゃなく敵の男を引き離そうってのは自業自得。
春彦君、どこまでもイイ男の適当さがあって面白い。
鳩子さんが危険をかいくぐって「鷲の頭の国」に来てるのを「はるばるこんなところまで訪ねてきた鳩子さんを見殺しにするわけにはいかない」って笑い死ぬ。気楽だなあ。女王の魔力でぐっすり寝ちゃうしw
妹の真理ちゃんもこんな兄貴じゃ心配だ。
でも逆にイイ男ゆえの優しさもあるんだよな。年老いた女王を背負って炎の洞窟まで運んであげる。
しかし炎のおかげで若返った女王は春彦に「鳩子さんとひとときの幸福をあじわいなさい。そしてあなたが次に生まれ変わった時に・・・」と告げる。
春彦は女王が若返ったことを話さず「火に飛び込んだよ」とだけ伝える。
たぶん春彦君は次に生まれ変わった時は女王と結ばれようと決意したのではないだろうか。
いやあ、おもしろかったです。
後に山岸凉子先生がエジプトマンガを描いたのもこれの影響があるのではないか。やはり若さと美が題材だった。
そして女王の部屋のデザインが『妖精王』に使われている。
横山先生の仕事量を思えば贅沢は言えないけどこうした少女マンガも描き続けて欲しかった気もします。味わい深い。
やはり才能豊かな作家だったのだなあと改めて思いました。