1977年「ビッグコミックオリジナル」3月20日号
この作品の話をまた書くことになってしまった。
いわゆる「ヤコブ館の二階はし」なのだ。
とはいえ「その話」はすでに以前書いたのでここで繰り返すのはやめよう。
気になる方は一番下まで行ってみてください。
ネタバレします。
なのでここではこの作品の感想のみを書く。
主人公は「島田太一」という名の名前の通り太った青年。
夢の中でも思い続ける大学時代の友人だった久野毬絵という女性がいる。
が、マリエは同じく大学時代の友人だった津川克実とすでに結婚し十年経つのだ。
大学時代、津川とマリエと太一はいつも三人一緒でバルセロナへピカソを見に行く計画なんかを立てていた。
眩しいほどの青春の思い出だ。
しかしその三年目、津川とマリエは突如大学をやめて結婚し太一だけが取り残されたのだ。
ちょっと涙にじむ。
太一は自分が描く女性の図案がいつも同じだと指摘されつつ「良い顔だ」と褒められる。
自分も勇気を出して個展を開いてみよう。津川の個展を見にいける資格がほしいと決心する。
そんな折、津川からの電話がある。
四日前にマリエが死んだ、というのだ。
津川の家に行くとそこにはマリエの写真が飾られていた。
そして津川はマリエの手紙を太一の前に放り出した。
「なぜ わたしたちはいつまでも三人でいられなかったのですか」
それを読んだ太一は泣いて訴えた。
「じゃあなんだってあんとき、オレに黙って消えたんだ」
津川は答える。
「マリエに対してオレとおまえは互角だったから、さらって逃げたんだ」
毬絵さえ手に入れれば幸福な人生を歩めると。
しかしその後津川は絵が描けなくなる。そんな津川をマリエは励ますが何もできなかったというのだ。
マリエは津川以上に気を病んで薬を飲みすぎ死んでしまったのだ。
太一は帰りながら考える。
「マリエがオレと結婚してたら・・・少しは幸福になってたか?いや、そうも思えない」
なんでだろう、と太一は思うのだ。
ふいに太一は津川の家に引き返し「個展を見に来てくれ」と訴える。
そして「どうして三人でいられなかったんだろう。オレはずっと三人でいたかったよ。
もう二度とあんな時期はないよな」
津川もこれに同意した。
「あれぐらい対等だった時期はないよな」
あらゆる可能性
あらゆる奇跡
手をにぎり合い
完全な円を構成していた
そしてその円は
外宇宙へ向かって
無限に広がっていた
ほんとうに、と思う。
太一が思う通りマリエが太一と結婚していても幸福にはなれなかったのかもしれない。
今なら、三人別々でいて三人として付き合う、という話にできたはずだ。
しかし私たちはこの話が、単なる創作話ではないとしか思えなくなってしまった。
毬絵は津川の方へつき津川は絵が描けなくなったのを我々は知っている。
そして太一は「オレはチンケな存在だから」と嘆きつつずっと作品を描き続けていくのである。今もなお。
宇宙はそのように進んだのだろう。
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