
ネタバレします。
唐の文宗の頃、長安に曹巌という男がいた。
謹厳実直で知られていたが万事につき頑なすぎて家族からも家人からもうとましく思われること甚だしかった。
それでも硬骨漢というので同僚の間では一目置かれているものではあった。
さてここからどこからどこまでが現実で夢想かわからないのだが面白い展開になる。
曹厳が仲間内で軽い飲み会をやってるうちまたも曹厳は世の中の乱れた男どもを侮蔑し自分は曲がったことは大嫌いでどんな難局にあっても節を曲げることはしないと豪語する。
仲間は曹厳を褒めたたえるが中のひとりは「そうばかりはいくまい。今の地位どころか命までも危ないという事態もあるだろう」と言い出す。
これに曹厳は「たとえ鬼神や冥府の判官の前でも何ら恥じることはない」と言い返す。
これにその男は「では化け物ではどうかね。妖怪や怪異の前でも動じないでいられるか」とふざけだす。
曹厳は「怪異などというものは人の心に弱みややましいところがあるからつけこまれるのだ。常日頃身心を鍛錬し身を守っていれば何も怖れるものはない」と言い張る。
ついに仲間の男が「西街にある荒れ屋敷で夜ごと怪異が起きているらしい。きみがその屋敷に一晩泊って怪異を見届けたらぼくもきみの強直さを認めよう」と言い出した。
引くに引けず、曹厳は「よし今夜にもそこへ行こう」と言明し、その前に用を足してくる、と席を離れた。
曹厳は裏の塀の脇に行きそこで用を足していると塀の向こうでなにやらささやき声が聞こえる。
曹厳は「塀の向こうは隣家の庭だ。泥棒かもしれん」と梯子を持ち出して塀の向こうを覗きこんだ。
そこでは隣家の夫人と若い男が人目を忍んでまぐわっていたのである。
その後、曹厳は仲間に言われた荒れ屋敷へと向かい真夜中「小人の怪異」を見てしまう。
掌に乗るほどの小人たちが人間と同じ服を着て「キーキー」と鳴きながら他の小人を棒で打ったり𠮟りつけている様子は役人の真似事のようで曹厳は大笑いする。
だが、卓や椅子を並べ数人で談笑し始めたのを見て「これは先ほどのわしの真似をしているのか」と気づき始めた。
やがて曹厳役の小人が群れを離れ塀にはしごをかけ向こう側でまぐわっているふたりを覗き見はじめた。
曹厳役の小人はそれを見て涎を垂らし目を皿のようにして覗きやがて自慰を始めたのである。
「この、たわけた真似を」と曹厳は怒りその小人を足で蹴り踏みつけた。
死んでしまったそれはネズミであった。
こうなると友人たちに事の成り行きを話すわけにもいかない。
曹厳はやむなく家に戻ると召使たちがはしりまわり妻子は嘆き悲しんでいるが誰も曹厳に気づいてくれない。
部屋の中には血だらけになって死んだ曹厳の遺体が安置されていた。
曹厳が茫然としていると「曹厳、冥府の使者だ。迎えに来たぞ」という声がした。
振り返ると服を着たネズミがたっていた。
「曹厳、冥界ではおまえの所業はすべて分かっておるぞ」と言い笑いながら穴に隠れてしまった。
「曹さん、曹さん」という声がして曹厳ははっと我に返る。
あの飲み会の部屋の片隅に彼は茫然と立っていたのだ。
「なにをぼんやりしているんだ。こっちきて飲めよ」
曹厳は果たして何に出会ったのだろうか。
それ以後彼のガミガミは少し減ったようである。
「魔婦」
大好きな一篇である。
かわいい見鬼ちゃんが五行先生のお使いに行く話。
五行先生は先日行った薬屋に大事な払子と買い物した人参の包みを忘れてきてしまったのだが(よほど何ごとかあったのだろうか)今手が離せないので阿鬼を使いに出したのである。
街に行くと見鬼はいつもの能力で小さな女の子が鞭ではたかれている幻を見る。
阿鬼は薬屋へ行ってお使いのものを受け取り傷薬を分けてもらった。
店の少女は優しくてついでに「みょうがの根」もくれた。おねしょに効くらしい。
阿鬼は先ほどの小さな女の子のところへ行って傷薬を塗ってあげた。
女の子は驚いたが「新しい母さんが意地悪で辛い仕事をさせてちょっとしたことでぶつの」と身の上話をした。
優しかった父さんも人が変わったように知らんぷりなのだという。
そこへ女の子の父親が戻ってきた。
それを見た阿鬼は女の子にもみょうがの根でまぶたをこすってから父親を見させた。
それはからだのあちこちを食われほんとうはもう死んでいるはずの姿だったのだ。
そこへ意地悪な義母がやってきて周りを見回してからその男の服をはだけて腹にかじりついたのだ。
「父さん」と思わず女の子が上げた声に気づいた義母は猛然と娘と阿鬼のほうへ駆け近寄った。
「お待ち!」
やむなく阿鬼はお使いの払子と包みを義母の顔に投げつけた。
義母は「ぎゃっ」と声をあげて倒れたのだ。
ここからの阿鬼と義母の攻防があまりにも素晴らしすぎて言葉にならないというか書きたくないくらい楽しい。
是非読んでほしい。
ふたりが夜道を必死で逃げ走っていると何やら怖い二人組が追いかけてくるのだ。
しかしなぜかその二人組は義母の仲間ではなく阿鬼たちを守ろうとして義母に襲い掛かる。
阿鬼は女の子を守ろうと先生に教わった結界を作って身を隠すがどうもいまいち効き目が薄いようだ。
義母は策を講じて阿鬼を騙し五行先生に化けて捕まえようとする。
ところがまた二人組のひとり、白髪の老人につかまり殺されてしまうのだ。
阿鬼は女の子の手をひっぱり五行先生邸の門を叩いた。
「先生、早くあいつをやっつけて」と阿鬼が叫ぶが五行先生はまったく動じず
「なんだ、払子と人参を取ってこいと言いつけたのに、払子と人参に送ってきてもらったのか」
阿鬼と女の子が振り向くとそこには払子と人参が立っていた。
あまりに好きでもだえる。
「三呆誤計」
宋の頃、江西楽平県に張某という金持ちの道楽息子がおり遊びまわっていたが道術に興味を持ち、手軽に術を学びたいと考え竜虎山の道士に弟子入りした。
道楽息子は「修業は苦手なのでなんとか手軽に楽をして道術を学びたい」と申し出る。
道士は怒ったものの「金があれば」と言い出して多大の金品で術を一つだけ教えた。
道楽息子はそれで気を良くし街に戻る。
張は早速目の前にいる美人を素っ裸にしてしまう。
張が習った術は脱衣術であった。
見かけた金持ちの屋敷の娘にこの術を使ってみたいと思い立つが屋敷に入られてはどうしようもない。
そこに屋敷の壁から抜け出てきた男を見つける。
その男・李もまた竜虎山で手軽にひとつだけ術を学んできたのだった。
ふたりの男たちは組んで女の部屋へ入って手籠めにしようと相談する。
ところが壁抜けの術は本人だけしかできずくっついて試してみても張は壁は通れないと判った。
これを見ていたもうひとりの男が笑って現れる。
この男も同じ山で男女接合の術というのをひとつだけ習ってきたのだという。
王というその男は三人の身体を接合してみせた。
三人は身体を接合して壁抜けをし女の部屋まで行き女の服を脱がせた。(はっきり言ってこの術いる?)しかし勢い余って三人の服まで脱げてしまう。
女はきゃあきゃあと騒ぎだし変態よ、と助けを呼ぶ。
早く女を襲いたいが三人の男がくっついたままではどうにもならない。
王は術を解こうと呪文を唱えるが最後に袖を振らなければかからないのだ。
騒ぐ間に屋敷の男たちが娘の部屋へ駆けつけてきた。
三人はやむなくくっついたまま逃げ出す。
そしてそのまま屋敷の塀壁を抜けようと飛び込んだが壁にはまったままでつかえてしまう。
壁抜けは「禹歩」をしないとかからないのだ。
しかし真ん中の張がずり上がって足が地面に届かなかったのである。
三人は塀壁にはまりこんだまま街中のさらしものとなってしまった。
翌日壁を壊して取り出され役所へと連行され物笑いになったという。