
ネタバレします。
「花仙境」
悲恋物語である。
ある富裕な主人から息子の様子がおかしくなった見てほしいという依頼を受けて訪れた五行先生と見鬼であった。
息子は呆けたようにぼんやりとしているが見鬼の目で見ても何ら妖しい者の存在はなかった。
その夜五行はその息子の部屋で様子をじっくり見るつもりが突然眠気が襲ってきた。
五行が眠り込んでしまうと息子はふっと立ち上がり開いた扉の向こうへと吸い込まれるように行ってしまう。
それを見た見鬼は先生を揺さぶるが起きない。
やむなくひとりで息子の後を追いかけた。
するとなぜかそこは不思議な花盛りの世界で息子は美しい女性と待ち合わせをしていて抱き合うのだった。
見鬼はその女性の侍女である公英と出会ってことの次第を聞く。
「奥様は十日前若様を見染めて夜ごと朝まで過ごすのよ」
見鬼を子ども扱いにしていた公英だったが巨大な虫の化け物に襲われたところを見鬼に救われて見直し寄り添ってきた。
そういうのが苦手らしい見鬼は「若様の様子を見てくる」と逃げ出す。
「そっちへ行っちゃだめ」という公英の声にも止まらなかった見鬼は花の中に落ち込んでしまう。
そこには大きな穴が開いていた。
真っ逆さまに落ちそうになった見鬼の足を掴んだのは五行先生だった。
美しい女は十日前に息子が胡人から買った百合の花だった。
その胡人が屋敷に来て説明をした。
そのユリは精を成し人並の知恵や感情を持つに至ったものだという。
そして十日前開封の市内で若様を見染め、胡人は百合の精の頼みで一時的に添わせてやろうと花を売ったという。
「けれども人間と花の精はいつまでも一緒には暮らせません」
胡人はユリを引き取って去っていった。
屋敷の主人は花を気味悪がって屋敷中の花を捨てさせることにした。
部屋の中にはもうひとつ小さなタンポポの花鉢があった。
見鬼はそれをもらって帰る。
後になって胡人は「しまった、おまけにつけてあげた蒲公英を返してもらうのを忘れた」とつぶやく。
夜になり、眠る見鬼の寝室でタンポポの花は公英の姿になっていた。
「毛家の怪」
この話が一番怖い。
表紙絵も凄みがある。
この物語は小琴というひとりの少女が語る。
十二歳から毛家に奉公していたという。
毛家はそのあたりでは一番の大家なのだがだんなは丁という名で家屋敷や財産はみな奥様の毛氏のものであった。
ふたりの結婚は周囲の反対もあったものの結局入り婿という形となったのである。かといって毛氏はでしゃばるわけでもなく万事ひかえめでふたりは仲睦まじく羨ましいものであった。
ただ時々もしかしたら奥様は悋気が強いのではないかと思われたのだ。
この女性が美しいのに(!)とても奥ゆかしいのが妙に恐ろしい。
中国女性にもこのような謙虚な人がいるのかしらという疑念もあるが(失礼)率直にやはり嫉妬深いのでとても良いが怖い。
しかしこのだんな、イイ男だから仕方ないのかもしれないがどうしてこうちょろっと余計なことを言うかな。
丁氏はあきらかに美男子なので毛氏に気に入られたのだが丁氏は生来女好きであったのだという。
残念なことに毛氏に子供ができず家に女性を入れることとなる。若く美人であった。
その時からだった。
真夜中真っ黒な蛇のようなものが這って行くのをひとりの小間使いが見たというのである。
その数日後だんなが所用で外泊した夜、新しい奥様が何者かに襲われその美しい顔がめった切りにされたのだ。
新しい奥様は「この家にはいたくない」と泣いて訴え奥様は十分な見舞金を与えて出してあげたのだ。
つぎには小間使いの娘が小琴に打ち明ける。だんな様の手がついていたというのである。
娘は真夜中に診た黒蛇を恐ろしがり小琴に一緒に寝てくれるよう頼む。
果たして真夜中、小間使いの娘の部屋の中に黒蛇のようなものが這いこんできたのだ。
小琴はとっさに火のついた蝋燭を投げて事なきを得た。
そして翌日小間使いはこの屋敷を去っていった。
そしてある日、丁氏は小琴を見て「きれいになってきたじゃないか」と毛氏に何気なく口にする。
小琴はこの言葉に恐れをなした。
その夜、黒いものが小琴の部屋に入り込もうとしているのを見て彼女は包丁で切りつけた。
黒いものはさっと引いていった。
が、しばらくすると「ぐわああっ」という丁氏の叫び声がしたのだ。
見回りをしていた爺やの話によるとなにか長く黒いものが床を這っていたというのだ。
そてはずるずると毛氏の部屋に消えていった。
丁氏は目玉をえぐり取られていた。
毛氏は確かにその時眠っていた。
だが小琴が切り落としたのが髪の毛だったこと、丁氏の目玉に黒髪が絡みついていたこと、そして去っていった小間使いと共に見た黒いものが毛氏の顔に見えたこと、から小琴は毛家を出たのだ。
いまや毛家ではそんな事件は起きないだろう。
毛氏は完全に丁氏を独占したのだから。
話の中で毛氏が「美しい髪をしている」というのが布石になっている。
独占愛はおそろしい。
「連理樹」
これも悲恋物語である。
五行先生と阿鬼が江南へ旅した時のことである。
江南は水の国という。
美しい湖に竜船を浮かべた景色を五行は讃えた。
竜船はある富裕な太守が造らせたものだった。
太守は傲慢な態度で五行を呼び寄せ依頼をした。
その男が囲っている女にどうも間男がいるらしいので捕まえてほしい、というのである。
専門外だという五行に太守は「そいつは妖術を使って逃げてしまうのだ」と言い謝礼はたっぷりする、と言いのけた。
太守の態度が気に入らないものの五行と見鬼はその女に会いに行く。
そして女は夜になると落ち着かなくなり夢うつつとなった。
庭のほうから飛ぶようにして軍服の男が現れその女と床入りするのである。
見鬼はその様子を見て「木の人形です」と告げる。
それは五行たちの気配に気づき再び飛んで逃げようとした。
五行は火を放ってそれを襲うがそれは阿鬼を捕まえ「火を使えばこいつも焼け死ぬぞ」と叫ぶ。
五行は火を弱め「おまえは何の化け者だ。何故毎夜、女のところに通ってくるのか」と問うた。
それは「わしは化け物ではない。神だ。あの男はわしの妻を奪った。だからわしもあの男の女を奪ってやるのだ」と答えたのである。
五行は近くにあった斧でそれの腕を斬り落とし、阿鬼を救った。
五行はそれが仏寺のものではないかと考え木彫りの神将像がなくなったという寺を訪ねる。
訊くと最近彫らせた仏像がなくなったのだという。
五行は仏画を借りて再び女を求めてきた神将像を捕まえ札で封じ込める。
その像を彫ったという仏師はことの顛末を話した。
見事な巨木の連理樹があり地下では根を絡ませ空では枝を絡ませまるで仲の良い夫婦のようだったという。
ところがあの太守がこれに目を付け二本とも切り倒して竜船を造ろうと考えたのだ。
最初に斧を入れた時、幹からは血が流れ木は悲し気に身を震わせた。それでも太守はかまわずに木を切り倒させたのだった。
その時雷鳴が轟き、雷がもう一本の木に落ちてまっぷたつに引き裂いたのだという。
太守もさすがにあきらめその木は捨てていったので仏師は燃え残った木をもらい神将像を作ったのだという。
その時、雷鳴が聞こえ太守が乗った竜船の上に雷が落ちたのだ。
竜船は太守ごと燃え上がった。
同時に神将像にも火がつき燃えだしたのだ。
仏師と僧侶たちは慌てたが五行はこれを押しとどめた。
「かまわずにおきなさい。彼らはみずから死を選んだのです」
さて「後書」にこれら物語について書かれていました。
以前私は「これらの物語は、あったものなのか、諸星氏の創作なのか」と書いたのですがちゃんとここに中国の古典を基にしてオリジナルで書いた、とありました。
読んでいたはずなのだがうろ覚えすぎました。
諸葛恪は諸葛亮の甥っ子の名前でありこのような死に方をしたわけではないが縦に書いたものである、との記述もあります。
いくらなんでもそうだろう。