ガエル記

散策

諸怪志異(二)『壺中天』諸星大二郎 その4

ネタバレします。

 

「三山図」

恐ろしい話が続く中でほっこりするお話である。

安心してお読みください。(大変は大変だが)

 

唐の玄宗の頃、江州の近く。

それはひとりの木こりが山の中で不思議な一群の奇岩を見つけその側に「鎮」という字が見えるきれいな珠を拾いそれを売った。

それが巡り巡って県令の阮邦の手に渡った。

今度は阮邦が元の木こりを見つけ珠があったという奇岩の場所に案内された。

県令の阮邦は「まるで仙山を小さくしたような風情を感じて麓から人夫を雇って山から運び降ろさせたのである。

 

県令は奇木、珍石の類を好む趣味があり王侯貴族ほどではないが自分の邸にそれらを集めてちょっとした庭園を造っていたのおだ。

阮邦は三つの奇岩を庭の真ん中に置いてみた。

すると翌朝運び込んだ奇岩が動いているように思えた。

しかし眺めは素晴らしい。

ふと阮邦は「これは山中にあった時と同じ配置なのだ」と気づく。

ある夕方などはうっすらと靄がかかり夕陽に照り映えてたとえようもなく美しかった。

阮邦は「仙境を見る思いだ」と奇岩の側に足を運んだ。

三つの奇岩の中に入り込んだ時、足元に霧がかかり「まるで雲海の中にいるようだ」と思うまに岩が遠くへ行くように感じ気がつくと阮邦は宙を漂っていたのだ。

 

下に海が見え阮邦は慌て、落ちてしまう。

そこは見知らぬ土地だった。

人影を見つけて声をかけるとそれは夜叉であった。

夜叉に追われ阮邦は逃げる。

再び強風にあおられ空を飛ぶ。

行きついた先は「天上の上元宮」であった。

そこには美しい仙女たちがいて仙骨のない阮邦を怪しげに見た。

やがて赤脚大仙が現れ阮邦と共に飛んできた奇岩を見やり「たしかにわしの三山図だ」と言う。置き忘れて来たらしい。

そしてあの美しい珠は風を鎮めるためのものだったという。

今は皇帝に献上されていたがやがて取り戻そうと大仙は微笑んだ。

そして「これはもらっていくよ」と言って三つの奇岩をまるで紙に描いた絵画のようにくるくると丸めて脇に挟み帰ってしまった。

茫然と見ている阮邦にひとりの仙女が「おまえはいつまでそこにいるの、さっさとお帰り」と扇を振る。

阮邦はまたも強い風に吹き飛ばされた。

「あ?」と気づくとそこは自分の庭であった。

どうやらあれから一刻もたっていなかったようだ。

夢かと思ったが三つの奇岩はなくなっていた。

そしてその手には風に吹き飛ばされた時思わず奇岩を掴んだ時の岩のかけらが残っていたのだ。

 

「ありゃ、地図が破れとる」

そんな仙人の顔を想像しながらこの小石を眺めては酒を飲むのが阮邦の晩年の楽しみとなった。

 

「天開眼」

『壺中天』の最後の一篇。

見鬼登場で嬉しい。

なぜか見鬼、壺に入った変な顔の中年男を背負って走っている。

壺の大きさからして男のサイズが心配ではある。

 

この男、顔はあれだが決して悪い人ではない。

名を費長道と言って約五百年前の人だという(見鬼の時代からね)

優れた術師で薬学医学に長け甕の中にいつでも薬草を入れて病人を無料でなおしてやったという、立派な人なのである。仙人になったという噂があった。

阿鬼はこの話を老君廟で画を見ながら五行先生から聞いていたので彼を一目見た時から素性はわかっていた。

とはいえ草むらに隠れていた費長道が小さな甕の中から顔を出していたので阿鬼は驚き飛びのいたのだ。

しかも費は「五行先生のところへ連れて行ってくれ。一人ではこれ以上行けんのだ」と言い出した。

やむなく阿鬼は費が入った甕を背負って五行邸へと帰る。

しかし先生は留守で童子メッセンジャーがおり「この腰掛に乗れば自動的に蛾眉山にいるわしのところへ行く」と告げて箒になった。

費は感心し急ぎふたりは腰掛の乗ると腰掛はペガサスになって飛んだ。

 

道中、費長道は身の上話をした。

費は山に入って仙人になったと言われていたが実は仙人になりそこなったというのだ。

それでも未練がましく不老長生を続けているうち、体が縮んでこれだけになったというのである。

「もしかして邪仙?」と危ぶむ阿鬼を制し「悪いことはしとらん。ただ仙骨がちと足りなかったのじゃ」

その費長道にも最後のチャンスがある。

明日の夕方までに蛾眉山につければ「天開眼」に間に合うというのである。

「天開眼?」と阿鬼が問いかけていると周囲に邪悪な烏が集まりペガサスを襲ってきた。

費は「むん」と念をもって烏を追い払ったがペガサスは腰掛になり落下した。

腰掛は壊れ阿鬼は涙目になるが費は腰の包みを開けてみろと言い、中にある御札を見て「縮地の法」を使えと言い出した。

費に言われるとおり御札に字を書きそれらを両足に縛り付け費長道を背負って再び走り出す。

しかし日が暮れ幼い阿鬼は足が痛みもう歩けなくなった。

やむなく近くにあった廟で夜を過ごすことにした。

が、そこにはかつて費長道からこらしめられた朱万が土地神となっていたため費に気づいて仕返しをしてきた。

費にとってまったく怖くない土地神でありあっという間に廟を壊して逃げることとなる。

 

ところが大きな湖を眼前にしてふたりは道を間違えていたと気づく。

いつの間にか阿鬼の足に縛り付けていた御札が一枚剥がれ落ち、道を曲がってしまったようだ。

そこへ昨晩の土地神が虎に乗って襲ってきた。

そこへ現れたのは眼光鋭い眼光娘々だった。

眼光娘々もまた天開眼を見に行こうとしていたが阿鬼たちが道を間違えているのを見て後を追いかけてきてくれたのだ。(ほんとうにやさしい。ファンです)

しかも娘々は自分の編み笠に阿鬼たちを乗せ蛾眉山へと連れて行ってくれる(やさしい)

娘々は費長道が仙骨が足りず仙人になれないのだが病人を治し人助けをしてきたことから助けてあげようと言ってくれた(やさしい)

 

だがそこで五行先生がかつて戦ったあの邪仙が烏の中に潜んでこの機に現れ復讐しようと襲ってきたのと戦っていた。

邪仙は天開眼が始まったのを見て行こうとするのを眼光娘々が阻止した。

邪仙は娘々の剣を刎ね飛ばす。

それを見た費長道は阿鬼に「ぼうず!わしを甕事あいつにぶつけろ」と叫んだ。

張角!わしの残った丹田の気をすべてぶつけてやる」

費長道は邪仙を破壊した。

 

千年に一度、天が眼を開く。

中国中から地仙や尸解仙が集まり天界に入って天仙になろうとするのだ。

 

阿鬼は邪仙を倒し割れた甕の下になっている費長道を見て言った「この人はもう仙人になれないの?」

五行先生は「うむ。気の毒だが・・・」と答える。

その時、一つの魂が立ち上った。

「あ・・・」

天に浮いていた眼光娘々がその魂を抱く。

「この魂はあたしが天へつれて行ってあげるわ。天仙にはなれずとも天界の役人くらいにっはなれるでしょう」(やさしいいいいいいっ)

 

阿鬼と五行は天開眼の中に消えていく仙人たちの姿を見送った。

 

またも眼光娘々への尊敬が増した。

変な顔、と思ってしまった費長道さんは最後まで立派な人だった。

きっと天界で働いているに違いない。