ガエル記

散策

諸怪志異(四)『燕見鬼』諸星大二郎 その2

ネタバレします。

 

「霊山」

燕見鬼と小玉は仇道人、十四娘から逃れた。

これで推背図の予言が一つ当たったことになる。

小玉はかつて家庭教師をしてくれた碣村の方臘先生を頼ることにした。

ふたりが碣村を訪れると遊手(無職の徒)が迫ってきたが方先生の声で守られた。

見鬼は五行先生が呂太公を通じて推背図を渡そうと思った相手はこの人ではないかとも考えたがそれも呂太公がいなくてはわからないことであった。

 

そもそもその推背図を取り戻さなくてはならない。

方先生は「霊山」という場所に山賊がいることを教える。

そこへひとり向かうという見鬼に方先生は「霊山の麓にいる石という男を訪ねるがいい」と教えた。

 

見鬼は石に会い食事を共にする。

石に肉をすすめたが石は「肉は食わない」と断った。

そして道案内をすると言ってくれるのであった。

 

「方先生の言いつけだから案内はするが何故山賊どものところにいくのかね」と問うてきた。

見鬼が「推背図を取り戻すために」と答えると石は大笑いし「推背図」なら俺のとこにもある」と言ってドサドサと推背図を放り出した。全部偽物だという。

石によれば「推背図というのは予言書で解釈によってどうとでも取れる内容が書いてある。お上にとってこんな厄介なものはない。だから何度も禁止されたが太祖様の時に逆にたくさんの偽の「推背図」を作ってばらまいたのだ。世の中「推背図」だらけでどれが本物かわからなくなり誰もこの書を顧みなくなったってわけだ」という。

 

その頃、仇道人はやっと手に入れた「推背図」を開こうとしていた。

が、五行の禁術がかかった包みは開こうとするとその者の手を焼いてしまうのだ。

手を火傷した仇道人に十四娘は「これが手を焼くということだね」と言って笑った。

 

夜中、見鬼は石が祈りを捧げているのを見る。

あの男は喫菜事魔なのだろうか。

(「喫菜事魔」はマニ教のこと)

翌朝、約束通りに石は山賊どもの棲み処まで案内してくれた。

「あとはひとりで行くからあんたは獣道で待っててくれ」と見鬼は頼む。

術を駆使して見鬼は山塞へ入り込む。

中では仇道人が再び推背図を開こうと試み、役人に呪いをかけ燃える推背図を開かせようとしていた。

が、再びその炎は仇道人の手に燃え移ったのだ。

慌てて逃げ出す道人を見送って見鬼は推背図を奪い返す。

ここでも十四娘が見鬼を追い詰める。

だが十四娘は腕の傷がまだ癒えておらず破山剣が使えない。

十四娘は思うように戦えない。

仇道人は改良した火雷箭を部下に持たせ己の気に合わせて撃たせた。

それが見鬼の胸にあたる。

胸に入れていた推背図が守ってくれたがその拍子に落ちてしまう。

見鬼は火薬の爆破で目を傷め見えなくなったまま逃げ出した。

近くにあった祠に隠れた。

山賊らが入り込んで見鬼を探すが目の前にいるのに何故か見つけられることがなかった。

 

祠の前で十四娘たちも来て怪しんでいたがそこへ喫菜事魔の集団が訪れ「火に導かれて来た」と言う。

彼らは「推背図」を見たいという。

十四娘が「手に入れても五行というやつの禁がかかって中は見れないよ」と答えると喫菜事魔は「万年楼の中でなら開けることができる。取引しよう」と言ってきた。

 

祠のすぐそばで行われたこの会話は見鬼の耳にも入ったが目が見えなくなった彼にはもうどうしようもなかった。

目は焼けるように痛かった。

 

見鬼を優しく起こす手があった。

「起きなさい」

だがもうその力がないと嘆く見鬼を励ましその声の主は見鬼の目を掌で包んだ。

痛みがとれ、今度はゆっくりと目を開けるとかすかに光が見えた。

「もう大丈夫。もう一度お眠りなさい。今度目が覚めた時は元通りに、いえ前よりもっと見えるようになっているでしょう」

「あなたは・・・どなたですか?」

見鬼は問いながらそのまま眠りに落ちてしまった。

 

見鬼が目を覚ました時、彼は自分の目が見えると判り痛みもなかった。

祠の中には眼光娘々の像があった。

彼女が見鬼を守ってくれたのだ。

見鬼は深く礼を言い「推背図」を取り戻すために祠を出た。

「万年楼だ」

見鬼は走り出した。

 

 

『燕見鬼』はここで(今のところ)終わっています。

この物語は実際に中国で起きた「方臘の乱」へと続くのです。

それは宣和二年(1120年)に起こり、やがては北宋を滅ぼすきっかけとなるのでした。

五行先生と方臘の関係は。予言書「推背図」がどのような意味を持つのか。

はたまた呂太公、小玉はどうからんでいくのか。

 

そして「獣道で待ってて」と見鬼が頼んだ石さんはどうなってしまったのか、気になります。(諸星先生~~~せめて待たせなければよかったと思うんですがw)

喫菜事魔の行列に関わっているようにも思えますが、どうなんでしょうか。

 

『燕見鬼』はここまでですが、本著では番外編的な燕見鬼の子供の頃のお話が作品入っています。

 

「土中の怪」

開封の城外に鄭員外という地主がおりその敷地内で奇妙なものが掘り出された。

地主は五行先生という道士を呼んでこれを見てもらった。

瓜畑のはずれで瓜が生えないところがあるので瓜番が気になり掘ってみるとこれが出てきたと伝える。

五行先生はひと目見て「孔子の頃に墳羊というものが掘り出されたと言います。土中の怪で羊のようだった、といいますが」と答えた。

するとそれは「違うよ。墳羊じゃないね」と口をきいたのだ。

皆驚いた。

五行先生はそれに「墳羊でなければおまえは何の化け物か」と問うたがそれは人を馬鹿にしているように口を閉じた。

五行先生は「このようなものは殺してしまうのがよいでしょう」と地主に告げる。

地主は祟りを怖れたが五行先生は「気持ちをしっかり持ってさえいれば大丈夫」と答えたのでそれは小作人たちによって殴り殺されて裏の空き地に埋められた。

ところが数日後今度は南の畑から別の形になって出てきたのだ。埋めた場所には何もなくなっていた。

これを聞いた五行先生は再び地主邸を訪れ「地中に犬は賈といい、豚は邪という。豚に見えなくもないから邪であるかもしれんな」とつぶやくとそれは「違うね。邪じゃない」と答えたのだ。

さしもの五行先生も「こ、こいつ」と呻いた。

五行先生、化け物に蔑まれたので少々意地になってくる。先生が化け物の出た場所を確認している間幼い阿鬼は近くの林の中で話し合っているふたりの子供を見た。

「名前さえわかれば簡単に殺せて二度と生き返らないのにね」という声が聞こえた。

これを阿鬼が五行先生に伝える。

地主の鄭員外は続く怪事に気味が悪くなり阿鬼をしばらく貸してほしいと言い出した。

 

さて五行先生がなんとかその化け物の名前を知りたいと調べているところ「あの鄭員外は悪い噂もあるから」という者がいた。

瓜畑の隣に住んでいた衛という一家がいて家の境界線でもめていたのだが去年火事になって一家のほとんどが焼け死んだらしい。

「だがこの火事は鄭員外が人を使って火をつけさせたのではないか、という噂があるのです。なにしろ員外はどさくさに紛れて衛家の土地を乗っ取ってしまったのです」

これを聞いた五行先生は「ほう・・・」となったのだった。

 

鄭家に預けられた阿鬼はまたも別の幽霊を見る。

五行先生は化け物の正体を見破りヒノキで作った杭を頭に刺せばいいと伝えるが「媼」は黄金のありかを教えるから命を助けてと言い出す。

欲にかられた鄭はついに媼の言う通り衛家の死体を掘り起こしてしまう。

鄭は黄金欲しさに死体に近づくと死体は短剣で鄭員外を突き刺した。

阿鬼が見た女の子は短剣の精だったのだ。

 

こうして衛は一家を焼け殺した鄭に復讐を果たしたのである。

 

 

「麗卿」

屋敷で庭園にそぼ降る雨を見ながらため息をつく美しい娘がいた。

娘は金蓮という小間使いとふたりきりでこの屋敷に住んでいた。

退屈になった娘は雨の中を散歩する途中で若い男を見かける。

金蓮はお嬢様の話し相手にとその男に声をかけた。

 

娘の名は符麗卿、男は喬宣といった。

ふたりはたちまち恋に落ち離れられない関係となる。

 

ある日、喬宣が来ないので麗卿はぼんやりとしていた。

そこへ来たのは阿鬼であった。

阿鬼は麗卿を見るや逃げてしまった。

そのことを金蓮に伝えると金蓮は「お嬢様、私たちはもうここにはいられません。五行がやってきます」と言う。

見る間に立派な庭園のある屋敷は無残な荒れ庭と廃屋に化した。

十二年前、お嬢様は死んでいたのだった。

 

そこへ喬宣がやってきた。

荒れ果てた廃墟を見て驚く。

そこに立っていた五行に声をかけた。

「このへんに大きな屋敷があったはずですが?」

五行は「ここはもう十年も前に主人が死に一家は他所へ引っ越したと聞いています」と答える。

喬宣は納得できないように中に入る。

すべて荒れ果てホコリをかぶっている中に牡丹燈籠だけがたった今そこへ置かれたように残されていた。

喬宣はそれを抱えて去った。

 

その夜、喬宣の枕元に麗卿が立った。

「もしまだ私を愛してくださるのならこの燈籠を持って探しにいらして」と言って消えた。

喬宣が燈籠を持っていくと金蓮が「お嬢様は奥においでです」と誘う。

 

そこへ五行と阿鬼が到着したが金蓮がそれを阻もうとした。

 

さてここからちょいと難しい。

麗卿と名乗った美しい娘は麗卿本体ではなく一緒に埋められた紙人形であった、ということか。

麗卿自身は悪鬼となって喬宣を求めて食らったが五行の呪術によって破壊された。

だがそれからもどんよりと暗い日や月が欠けた夜には喬宣の霊と紙人形の麗卿とが手に手を取って歩く姿が時折見られたという。

 

麗卿その人ではなく紙人形が美しい亡霊となっていた、とは。