
この二週間はりつめていたので諸星大二郎の中でも特に好きな(そればかり言ってる気もするが)「諸怪志異」シリーズに参ります。
ネット検索してブログ記事を見つけたら自分でした。もともとのgooブログは消えてしまうので移行したアメブロのほうを貼っておきます。気が向いたら覗いてください。
それでは参りましょうか。
ネタバレします。
まずは表紙が素晴らしくて中の扉絵もいいのですがその次の目次絵がステキなのです。
切り絵の手法で描かれた秀逸なデザインを見てほしい。
「犬土」
「けんど」と読む。
この作品は基本ルビがふられてないので要所にふられている時を逃してはならない。
(自分への戒め)
「犬土」は『西遊妖猿伝』にも多く登場した「巫蠱」の一種である。
時代は「宋」
首都・開封に住む許栄良という善良な役人が城外の知人宅を訪ね、酔って日暮れに家路を急ぐ場面から始まる。
昔、中国では時間になると城門が閉まってしまうため許はやむなく城外にある李の店に止めてもらおうと向かうのだが途中で奇怪な「目の無い豚」のようなものに襲われてしまうのだ。
その化け物は鋭い歯で許の足に噛みつく。許は悲鳴を上げて近くの屋敷の門を叩いた。
向かえ出たのは小さな童子に提灯を持たせ「先生」と呼ばれる壮年の男であった。
これが本作の主人公たる道士の五行先生(本名:劉真人)とその弟子の燕見鬼である。
颯爽とした五行先生の佇まいも良いがなんといっても見鬼ちゃんの愛らしさに惹かれてしまう。
諸星先生はほんとに小さな男の子が可愛い。
許は手当てを受けながら、犬のような豚のようなモノに嚙み殺されるところでした、と訴えるが見鬼は「野犬に噛まれたような」と形容する。
先生は「ふむ」といい許に「今夜はここに泊まり、なにかまたあったらおいでなさい」と言い添えた。
数日後、五行は弟子の見鬼を連れて許の屋敷へと向かう。
許は出仕して留守だが五行は術を使って壁を通り抜け窓に覗き穴を開けて中を見る。
中の寝室では許の妻と男が交わっていた。
男はあまり評判のよくない巫でどうやら女中は買収されているようだった。
五行は幼い見鬼の目を塞ぎそれを確かめると再び術を使って外へ出た。
夫の許はその夜は宿直だった。
役所で寝ようとするとそこにまたもあの「犬土」が出たのだ。
驚く許の目の前で見土は逃げて消えた。
許はやはり五行を訪ねた。
五行は許に「犬土」という巫蠱を誰かが頼んであなたを襲わせたのでしょうと教えた。
そして「あなたは日を選んで帰りが遅くなると言って家を出、また城外へ行きそして日暮れを待って同じ道を帰るのです」と伝える。
許は言われた通りにした。
五行は見鬼をつれて再び許の屋敷へ向かう。
見鬼に「どうだ?阿鬼、見えるか」と問うと見鬼は「はい」と答える。
見鬼は不思議な力を持っていて中のものが見えるのだ。
屋敷の門を通してあの巫が許の妻を裸にして術をかけているのだ。
それと同時に許のもとにもあの目の無い豚があらわれていた。
妻が叫ぶと許の周囲の豚も叫ぶ。
そしてまたも許は犬土に襲われたのだ。
許は五行の忠告どおりに群れから離れた一頭を見つけ小刀で斬りつけた。
とたんに妻が苦しみだした。
術をかけていた巫は慌てて術を解こうとしたが何故か解けない。
五行が念をかけていたのだ。
許が犬土をさらに刺そうとすると目の無い豚のその顔は妻の顔に変わる。
「おまえは」
巫の男は慌てて苦しむ妻に近寄るとその顔はあの目の無い豚に変わっており鋭い牙で噛みついたのだ。
巫は死んだ。妻もまた。
城外で許はひとり茫然としていた。
事件が終わり見鬼は先生に問う
「なぜあれを犬土と呼ぶのですか」
「猪という字から目を取ってみろ。犭土という字が残るじゃろう。それを犬土と呼ぶのじゃよ」
「異界録」
本自体のタイトルになっているので当然でもあるが本編は特に名作だと思う。
諸星作品の中でも屈指の名作ではないだろうか。
呉の諸葛恪がある郡の太守だった時山中に狩りに出た。その時、息子の諸葛元が二つの山の山間で行方不明になったところから物語は始まる。
父親の諸葛恪は懸命に息子を捜す。
問われた下男のひとりが「子供のようなモノが突然現れ若様を引っ張ると消えてしまったのです」と答えた。
諸葛恪はそんな言い訳は意に介さず探し続けた。
すると諸葛恪の側に突如童が現れ手を差し伸べたのだ。
驚く周囲の者の前で諸葛恪は逆に童の手を取りぐいと引き寄せた。
童はドッと倒れるや皆の目前で「裏返し」になってしまったのだ。
つまり内臓が表に出て童は死に絶えた。
皆は閣下は神通力をお持ちかと驚いたが諸葛恪は冷静に「白沢図」という書にのっていた「山間に住む精は人を見ると手を伸ばして引っ張ろうとするは立っているところから引き離せば死んでしまう」という話を知っていただけだ、と答えた。
「では若様は・・・」
諸葛恪は随分と息子思いの父親で突然出会った女が同じく息子を失ったというのを信じて一緒に山の奥へと向かう。
その姿を見た供の者たちには山がめくれ閣下と見知らぬ女が中に吸い込まれるように入っていったように思えた。
女と共に諸葛恪は洞窟の中を進んでいく。
洞窟の天井には別の童が逆さまに立っていたかと思うと地上にいた男を引き込んでしまった。
引き込まれた男もまた裏返しになって繭のような形になり洞窟の天井にぶら下がったのだ。
女は急に「あれがあなたの息子です」と指さす。
諸葛恪は驚き女が自分を洞窟に誘きこんだと察知した。
「さきほどあなたが殺した童が私の子供です」
女は消えた。
諸葛恪は洞窟を彷徨い山間で消えたというかつての部下・王信と出会う。
王信は諸葛恪にこの洞窟の仕組みを教えてくれた。
王進は一年前に玄牝さまに招かれここへきて裏返しの繭となり再び人間の形になっているのだという。
ここで暮らせば何も食べることも飲むことも必要なくなり幸福になれるのだという。
そして次第に若返っていく。
ここは外界と逆さまの世界なのだ、と告げられた。
「谷神は死せず、これを玄牝という」浪士の「道徳経」の言葉通りであった。
さきほどの女こそ玄牝だったのだ。
玄牝は諸葛恪に「俗世では得られない至福を与える」というが諸葛恪はこれを嫌う。
玄牝は諸葛恪に失望し繭となった息子を返し地上へ追い返した。
諸葛恪は裏返しになった息子を抱え「せめて埋葬だけでもしてやろう」と嘆きながら戻った。
地上ではお供たちが彼を迎えた。
が、その途端諸葛恪は見る間に裏返しとなってしまったのだ。
逆に裏返しとなっていた息子の諸葛元はその途端に裏返って元通りとなった。
蘇生した諸葛元は異界にいた間のことは何も覚えていないが母の腕に抱かれているような安心しきった気持ち良い思いだけが残っていたという。
晩年になって諸葛元は再びその山へ行き、そのまま消息を絶ってしまった。
いったいなんなのだろうか。
こういうお話があるのか、それとも諸星氏の創作なのか。
諸葛恪は優しい人だったのに裏返しになってしまって気の毒だった。
でも息子を取り戻せてよかったのか。
それとも息子はそのままでいたかったのか。
どちらにしてもふたたび至福を得に行ったのだから良いのであろう。