安冨歩教授を知ったのは「れいわ新選組」からでした。女性装の男性東大教授という存在にまず惹きつけられそのお話から考えを聞いてより興味を持ちそれから経済学者と判ってますます驚いたのですがその著作に「星の王子さま」やマイケルジャクソンについて書かれたのがあるのを見つけてさらに困惑しました。
マイケルについての本は未読ですが『誰が星の王子さまを殺したのか』を読んで少しは安冨教授を知ることができたように思えました。
資金が乏しいので次々と著書を購読はできない私が次に読むことにしたのが本書です。「論語」の本とどちらにしようかとかなり迷ったのですが実は私は「満洲」にとても興味があったのでこちらを選びました。
現在でも「論語」を自著の題材にする方はかなりおられるでしょうが「満洲国」を書かれる方はあまりいないでしょう。
もともと満洲についてもっと学びたいと思っていた私には「女性装で気になった教授が満洲について書かれている」ということがあまりにも奇妙な奇跡のような出来事ではありましたがこの本を読むとそうした奇妙な奇跡が決してそうではないことが理解できるように思えます。
内容はさすがに経済学者の方が書かれただけあって簡単に飲み込めるようなものではないのですが何回も読み返して少しずつ咀嚼していきたいと思っています。
満洲にはいろいろな側面があります。
最近テレビでも報道されていたのは満洲へ開拓民として言っていた一般の人々が終戦時に帰国するために辛酸を舐めた体験談です。
安冨氏もここに関する話題は弱い心が耐えきれず触れるのを避けていた、と書かれていますが私も子供時代から先の戦争の話が惨たらしく恐ろしくて避けてきました。
日本人が残酷な目にあうだけでなく日本人自体が残酷なことをしてきた話を少しでも聞くのは堪えがたくどちらに関しても目を塞ぎ耳を向けないようにしてきたのでした。
が、いい加減大人になってからのことですがある時「やはりそういったことを勉強しなければならない」と突然思いたちがむしゃらにそうした本を読み漁っていた時期があります。
あまりにも読み漁りすぎましたし今のように記録してもいなかったので誰のどんな本を読んだかはわからないほどです。
同じような時期に中国の映画やドラマにはまってしまったのもあって(どちらが先だったかもよくわかりませんが)かなりの本を読みました。
なので私にとって先の戦争は太平洋戦争というよりは日中戦争の流れになります。
そんな時期の最後辺りに出会ったのが安彦良和『虹色のトロツキー』でした。
これはまさに満洲国に作られた「建国大学」に編入させられる日蒙ハーフの青年が主人公となって大きな陰謀に巻き込まれて創作物語です。主人公のウムボルトはむしろ日本人の父の血を嫌悪していて最後まで自分が半分は日本人であることを拒否したままという安彦氏の描き方には大きな意味があるように思えたのです。
『満洲暴走 隠された構造 大豆・満鉄・総力戦』で安富歩氏は「今現在の日本は満州国だ」と表現しています。
満洲国が高い理想を掲げながら実際はごく一部の有力者たちが利権収賄のための欺瞞に満ちた傀儡国家だったように現在の日本も全く同じであり私たちはそこに住まわされ従わされている、という氏の意見に私は賛成せざるを得ません。
そしてエピローグに書かれた「あなたはあなたを取り戻す」でこの現在から自分たちが脱却するには暴力ではなく自分自身を変えていくことだと書かれています。
これは非常に重要なことですが非常に困難なことでもあります。
日本人は「お上が決めたことを変えられるわけがないだろう」とあきらめきっています。これ自体が奴隷であることの証明なのですが実際は奴隷ではないのです。
これは別のところで語られていたと思うのですが例えば「満員電車が嫌なら皆がそれを拒否してしまえばいいだけなんだよね」ということです。
暴力で訴える、選挙でもぎ取る、などではなく皆が「満員でぎゅーぎゅー、痴漢は嫌だし」なら全員乗るのを拒否すれば国や企業のほうが変えざるを得ない、というわけです。
安冨氏のようにやりたければ女性装をすればいいし、女子生徒は皆でズボンをはいていけば良いわけです。
いじめも差別もこのやり方で変えていけるのです。
しかしそれが難しい。
わかります。わたしだってできないのですから。
でも世界を変えるには自分を変えることからしかできない、ということなのです。
昔怖ろしくて読めなかった戦争の話、日本人を見つめそこにあるおかしなものを見つけること。私は子供時代に避けてきたことを大人になってやっとできるようになりました。
なのでネトウヨの人たちが「日本人は立派で優しくて偉いんだ。それを悪く言う奴は反日だ」という心理がわかります。
彼らは小さい頃、若い頃の私です。怖い話を聞くのが辛くて逃げているのです。私自身がそうだったので凄くわかります。
勇気をもって自分たちの心の中を見つめなければなりません。
そして自分たち自身で自分たちの国を変えていかなければいけないのですが、それはとても楽しいことなのではないでしょうか?