ガエル記

散策

『スパイの妻』黒沢清

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TV版は鑑賞後の劇場版です。

とはいえ違いはまったくわからず。続けて観ればわかるのかもです。

とりあえず内容は同じで色調などが違うということなのですが。

 

再鑑賞で感想はどうかなと思っていたのですがとても面白く感じました。

娯楽映画、というのはこうであってほしいとも思えます。

「スパイ」人類史上常にあったはずで今もあらゆる場所でおこなわれているであろうこの所業は同時に最も忌むべきものと認識されます。

その対象が国家となれば売国奴と嘲られるのは当然なのです。

そこに夫婦の愛情が絡んでいきます。

コスモポリタン」と自称する夫には裕福に暮らしてきた嫋やかな妻がいます。しかし一見男に頼って生きるしかないかの如きこの女性は誰よりも強かであるのです。

 

やや芝居がかって見える演技が本作では非常に鮮やかとなります。

不確かな夫婦の愛はスパイという共謀者になった時に最も強いつながりになってしまったのです。

 

昔の女性の一途さを本作は魅力的に描写しています。

怖い、と言いながら愛する夫に頼まれれば必死で歩んでしまう。

それはもう愛というよりも意地のようでもあります。

昔の男である夫は自分の使命と思えば妻をも利用してしまう。

こうした力関係と意識は現在にはあまり期待できないものに思えます。

だからこそこの題材を形にするには戦時という舞台が必要になったのでしょう。

 

共犯者というものは最も強い愛情だということをこの映画は語ります。

愛する女性を危険に巻き込みたくない、という話はよくありますが渦中に妻を巻き込める魅力に女は溺れてしまうのです。

 

本作はなんといっても蒼井優だと思いました。