この第二巻は冒頭を除けば森鴎外の『舞姫』で描かれたそのモデルとなるエリスバイゲルトと森鴎外の物語となっています。
ネタバレします。
この物語をどのように受け止めていいのか迷ってしまう。
正直今の自分には本作を良しとしていいのか否定すべきなのかもわからない。
しかしそう言ってばかりでは先に進まないので思った通りに書いていこう。
まずは森鴎外という人物の人格を怖れる。
エリスに日本へ行って結婚しようと言いながら共にではなく別便で後を追わせている。
別に手をつないでとは言わないがこの時代に女性一人で渡航させてしまうことに人間性を疑う。この時点で鴎外はエリスが自分の後を追うことをあきらめさせようと思ってるのだ。
そのくせこういう顔をしてこういうことを言う。
嘘をついている人間の顔だ。政治家によく見る。
エリスはひとりで来日するがなぜか森鴎外は彼女を迎えることはなくエリスは長い間鴎外を求めて彷徨う。
この間にエリスを憐れみ世話を焼くのは何故か男たちだ。
この描写が私にはどうしても賛同できない。
実際のエリスはこうであったのだろうか。
それならば私は前言を撤回しなければならないが日本の男性が異国の女性をこうも丁重にエスコートし続けるだろうかと訝しむのだ。
女性ならばありうるだろうが男性が?としか思えない。
しかし物語は執拗に日本男性がエリスを歓待し柔道などによってエリスからの賛辞を得る。
そして森鴎外自身は・・・実家に戻りついにエリスの話を始めるが「断じてなりません」と母親から叱責され反論できない。
そしてこの鴎外の母親の言葉は正論だ。
「ではなぜあなたは帰国したのですか。何故ドイツ国にとどまって欧州の土となりませんでしたか。覚悟が足りないのです。理の人であるあなたにはこの国を捨てる蛮勇は奮えますまい」
この言葉は創作かどうかはわからないがその通りなのだ。
森鴎外が真実にエリスを愛していたのなら日本に戻らずドイツで暮らすべきだった。
日本に戻って結婚しようなどと言う言葉は最初からできないと判っているのである。
更に母は「破約を恥じるならこの場で腹を切りなさい」という。
しかして森鴎外は腹を切らなかった。
それにすべてが表されている。彼はエリスと結ばれようなどと思っていなかったのだ。
そして自分から説明することすらできず家族の者がエリスに会って話をつけるのだ。
読み終わって私の心情は変化してきた。
確かに森鴎外は日本人そのものに思える。
愛を誓っても日本社会というものに世間というものに家というものによって自分自身を歪めなければならないのだ。
西欧の美に憧れ愛しても日本人がそれと同化することはできない。
そんな考えは醜いものであり相手を見下すことはおのずと卑しくなる。
読み始める前は森鴎外とエリスの物語に疑問しかなかったがなにかひとつの答えを見つけたような気がする。