『スター・レッド』は萩尾望都氏が見切り発車で始まったと聞きますが読んでいくとなるほどとも思ったりはするものの逆にそれでもこれかと凄さに慄きます。
ネタバレします。
ミュージュが頑張っているのにセイとエルグが完全無視でふたりきりの世界に浸っていくのが笑える。
とにかくここで超能力者というのは稀な存在でなぜか赤色螢星(萩尾氏の造語か?)にのみ出現するとなっている。
ゼスヌセル系アーブ星人たちはいわば宇宙の警察というような精神で悪しきものを戒め正しき道へ導く気高い人種だという自意識を持っている。
これに反発を起こすのがわれらがクロバだ。
「おまえたちを救うためにやるのだ」とぬかすゼスヌセル系に「昔から火星は魔の星だった。とことん魔になってやろうじゃないか」と言い放つ。
なんという戦闘精神、圧倒的にクロバに共感する私はやはり戦争好きの地球人なのだろうて。
一方、セイとエルグはふたりだけの世界に没頭。
エルグは六千年もの間ひとりで生きてきて誰も愛せなかったという。
そしてついに君を見つけた、と。心から愛せると感じた少女、それがセイだった。エルグは「ぼくたちは忌むべき存在だ。火星は消されてしまうが美しい星を見つけてあげる。そこで暮らそう」と問いかけるがセイはあなたの戒めである角をとって火星で一緒に暮らしましょう。私たちは魔物。あの星で一緒に滅びましょう」と答える。
この考え方はまさしく『ポーの一族』とつながっている。
萩尾望都の描く人間は「魔物だ」と呼ばれ疎外される運命のものだ。
主人公はそのことに苦しみながらも魔であることの矜持を保つ。忌むべき存在と呼ばれてもやめたくないのだ。それはもう何度も言われていることだろうが萩尾氏にとって「マンガを描く」そして「特にSFが好き」ということなのだろう。
SFマンガを描き続ける(『ポーの一族』もその一つだと思う)ことを封印されることを萩尾氏は認めない。それは「生きていない」ことと同義なのだ。
「人の心には愛し合い許し合い与えあう部分だってあるわ」
「愛し許し与えるのは女だけだよ。子どもをおなかにもつ母親だけが純粋にそうだ」
なんだか記憶に残る言葉だ。
しかしたとえエルグから誘われてもセイは「別の道を見つけましょう」と言い返す。
そして圧倒的クライマックス、仲間の力を合わせて夢魔の星へテレポートするのだ。
ここでなぜかちょいと火星のチグルのエピソードが挿入される。
彼はなぜか突然空中にセイの姿、それも泣いているセイの幻を見る。これは後に理由がわかる。
さていにしえに滅びた夢魔の星、最古代遺跡の残る惑星始祖文明のネクラ・パスタへセイとエルグを送り込むためにクロバ、サンシャイン、源、カッパが力を合わせる。
そしてたどり着いた星はゾッとするような悲しい風景を持っていた。
この星でふたりは想像しえなかった状況へと追い込まれてしまう。
セイを失ってしまうのだ。
セイは星に共鳴し星の柱に吸い込まれてしまったのだ。
ここでクロバが処刑されてしまう。
続いてサンシャインとカッパを逃すために源もまた撃たれてしまう。
うっかりふたりは殺されたと思い込んでいたが今回読み直していてミュージュが「その男と火星人を冷凍にまわせ」と言っておりエルグも「千年ほど冷凍にされる」と言っているのでクロバと源は先年ほど冷凍された後、蘇生されるのだろう。
いいかどうかわからないが少なくとも死んでいなかったと判って本当によかった。泣。
萩尾氏ありがとう。
って、セイがここで突然いなくなるのか。
ひとり残されたエルグはどうなるのか。
続く。