「銀河英雄伝説」本伝・石黒版全110話、観終わりました!
外伝から鑑賞を始めて幾つかは観ずに本伝に入ったのですが確か6月1日からだったのでおおよそ一か月かかったわけです。
物凄い量ですが名残惜しくもあります。
とにかく!
「銀河英雄伝説」小説本10巻からなる本伝を110話のアニメーションとして作り上げる忍耐力にまず圧倒されてしまいました。
観るのは楽ちんですがこの長さをこのクオリティを保ちながら作ることがどんなに大変なことであったのか、私には想像できません。
しかしまたこんな面白くて素晴らしいアニメを作る仕事に携わった人たちは誇り高いだろうなと羨ましくも思えます。
そして当時、自分が若かりし頃に観た時よりも今改めてこのアニメ作品の凄さを再認識しております。
何と言っても各キャラクターの魅力は追随を許しません。
日本のアニメは特に昔から「子供向け」であることが前提ということで制作されてきましたからどうしても主要登場人物が少年少女であるのが当然になっていてそれは次第に作品の品質を歪めてしまうことになりがちでした。
本作の主人公たちも比較的若い年齢ではありますがそれでも20代半ばというのは日本のアニメではかなり年上です。しかも主役以外は30代40代それ以上の人物の活躍が多いアニメと言うのはなかなかないのですね。
惜しむらくは「銀英伝」は男性キャラが多すぎて女性の活躍がもう少し欲しいということですがそれでも作られた(書かれた)時期としては女性が重要な役割を果たしている画期的な設定であったかもしれません。
(例えていえば同時期の「ガンダム」のほうが女性活用は多いのでそこは残念なのです)
まあ、そのあたりはこの物語が未来でありつつ歴史を何度も繰り返しているような復古的描写もあるので再び性差別が登場し女性活躍が成長中だという設定だと考えてしまえば仕方ないことかもしれません。
帝国軍に比べ同盟軍は女性が登用されている、という描写はありますしね。
以下さらにネタバレします。
とにかく様々なキャラクターが登場してくることが楽しい作品です。歴史に詳しい田中芳樹氏の膨大な知識から写し取られた英雄たちのキャラ造形なのでしょうからどの人物がどのモデルからか考えていくのも面白そうです。
それにしてもキルヒアイスをよくもあの段階で死なせてしまったものだと思います。その件については著者田中氏が「少し早く死なせすぎてしまいました」とどこかで語られていたと思いますが、私は早い段階で彼を失ったのがせめて完全無欠のラインハルトにより魅力を増すことになったと思っています。
あまりにも完璧すぎるラインハルトに素晴らしい友人まで与えられているよりそれをもぎ取られたしまった悲劇性が彼には必要だったのでしょう。
そして「ふたりの主人公」のもう一人ヤン・ウェンリーとの違いが引き立ちます。
キルヒアイスに崇められ絶対的な守護を誓われる上下関係のはっきりしたラインハルトと対照的にもうひとりの主人公ヤンはユリアンを庇護し尊敬されながらも時に叱られからかわれむしろどちらが親か判らない、という公平な関係にいます。
そしてこれも対照的にキルヒアイスは身を持ってラインハルトを守り抜き、ユリアンは誓ったにもかかわらずヤンを守れず後悔するという構図を見せます。
しかし女性の描き方はやや筆者の願望が反映してしまうのか、ラインハルトの妻・ヒルダは二人の間に生まれた王子を胸に帝国の未来を託され、ヤンの妻フレデリカも政治家となって未来を築く道を歩いていきます。
次々と命を失っていく男たちと未来を築く女たち、という構図としてみることもできますね。
ヤンとフレデリカに子供はできませんでした。これもラインハルトとの対比を感じます。ラインハルトは息子がその器でなければ無理に後継者にする必要はない、とカイザーリン・ヒルダに言い残してはいますが血統として受け継がれていく帝国と人民のそれぞれの力で受け継いでいく民主国家の違いを表現しているのですね。
血縁ではない養子ユリアン・ミンツによってヤン・ウェンリーの考え方DNAは受け継がれていきます。
やがて配慮となるカリンが帝国生まれのシェーンコップの娘である、ということも未来につながっていくものに思えます。
そしてやはり涙なのがミッターマイヤーとロイエンタールの友情。人格と人生がまったく逆だったこの親友同士。家庭的なミッターマイヤー夫妻に子供が生まれず、生活破綻者だったロイエンタールに子供が授かるという運命。
反逆でなくなったロイエンタールの遺児を我が子として育てるミッターマイヤー夫妻の暖かな描写で物語が終わる。幼子が初めてミッターマイヤーを「お父さん」と呼ぶ幸せの中で。親の愛が薄くそのために不幸な人生を歩まざるを得なかったロイエンタールの魂がミッターマイヤー夫妻によって安らぎを得たように感じさせられる。
ラインハルトの最期は素晴らしいものでした。
燃え尽きて安らぎを感じて目を閉じていったのですね。これも平和を愛する人でありながら戦闘の中で殺されてしまったヤンと常に闘いを望んだラインハルトが平和と愛情の中で命を全うした、という対比になっています。
女性を愛する、というイメージがなかったラインハルトがヒルダを信頼し帝国の未来と子供を託したことも感動します。
その子にはアレクサンデルという名前とともに「ジークフリード」という最も大切な友人の名前が付けられたこと、そしてラインハルトに反逆したロイエンタールの息子が友となるであろうこと、宇宙の歴史が続いていくことを感じさせます。