戦前の台湾で生まれ育った日本人たちのことを湾生(ワンセイ)と呼ぶのだそうです。
1895年から1945年までの50年間、台湾は日本の統治下にありました。そこで生まれた日本人の子供たちにとっての故郷は台湾なのでした。
日本の敗戦によって日本人たちは台湾を離れるしかなかったのです。その地を故郷とする日本人たちは本来の祖国日本へと戻り日本に暮らし老人となったのですがいつも思い出す故郷は台湾であった、というドキュメンタリーでした。
ドキュメンタリーというものは「作られたもの」であることを考えて観ねばなりません。
日本と言う国はとても微妙であり奇妙な国でもありますね。アジア圏の端っこに位置し小さな国でありながら人口は多く、300年も鎖国しながら開いた途端にアジアを席捲できると思い込み戦争に負けると「とても優秀で善良な国なのに何故嫌うんだ」と苛立つ。
多くのアジア諸国からは嫌われているのでうんざりだけど、台湾の人々はどういうわけか親日家が多いのを知って笑顔になる、それが日本人なのですね。
他のいろいろな情報でも台湾の方が日本に対して好意的なのは聞くし私自身とても嬉しい気持ちになってしまいます。
おまけに台湾映画や音楽も好きでジェイ・チョウやチャン・チェン、リン・チーリンなど好きなクリエイター・アクターも数多くいます。
しかし、だからこそか、台湾は親日家、というところにだけ興味を示すことに複雑な気持ちを抱いてしまいます。
このドキュメンタリーを観ていても湾生日本人が強く故郷の台湾を思うのは伝わりましたが台湾の人たちが突然訪ねてきた湾生日本人をほんとうはどう思っているのか、微妙な感情が見えているように思えました。
訪問した時期があまりにも遅く、台湾の幼馴染は亡くなっているという件ばかりなのです。当人であったらどうだったのか、それはもうわかりません。
日本の統治下での台湾で双方の子供たちは同じように仲良くしていた、といっても統治している側とされている側に本当の平等があるとは思えません。
本作に映された台湾の人たちは本当に優しい人なのだろうとしか思えません。
統治下でなにもかも平等で幸福だった、なんていうことがあるのでしょうか。
結局、台湾のそれはあっても他の国への『回家』があればどうなるのか、怖ろしい気がします。
とはいえ今は老人でもその時は運命で台湾で生まれ育った子供たちは逃れる術もないわけです。
そうでない人もいたでしょうがやはり裕福な生活をおくれた思い出として美しく彩られているのではないでしょうか。
今台湾はすばらしい発展をしてより良い国となっています。
その分、日本はもう憧れられる国ではなくなっていっています。
台湾を見習って日本も良い国になっていけたら、とだけ思っています。