ガエル記

散策

『あぶない丘の家』萩尾望都 その1

「ASUKA増刊ファンタジー」DX」1992年夏の号・秋の号~1994年10月号」

本作再読して驚きました。

これはもうひとつの『残酷な神が支配する』ではありませんか。

 

 

ネタバレします。

 

 

黒髪の可愛い顔の弟と白髪のイケメン兄という設定はまったく同じ。

しかもこのようにイケメン兄アズが可愛い弟マヒコをいつも襲うという設定(チガウ)

両作品の執筆はほぼ同時期に始まっているのでこの設定自体は並行して考えられたはずだ。

しかもふたりの両親は自動車事故で死亡してふたりきりで暮らすというのも同じ。

(まあ『残酷な』は金持ち過ぎて単純なふたり暮らしにならないが)

違うのはあちらがドシリアスなのにこちらはかなーりおふざけで描いてるということ。

私的好みではこちらのドタバタファンタジーが好きである(スミマセン)

さて読んでいこう。

 

「あぶないアズにいちゃん」

さてそのアズ兄ちゃん、こと兄・平羅坂安曇(ヒラサカアズミ)と弟・真比古(マヒコ)は両親を失ってふたり暮らしをしている。

マヒコには不動律子というガールフレンドがいてその姉の静香は安曇にお手製のアイスクリームを渡してほしいとマヒコに頼む。

霊感のある静香は平羅坂兄弟が住む丘の家、月が丘のてっぺんには黒い竜が眠っていて空腹にのたうっては生きた子どもを食らうという伝説があるのだと妹に話す。

 

そしてマヒコは真夜中恐ろし気な女の子に襲われる夢か幻想かを見る。

しかしアズにいは死んだ両親の幽霊をマヒコに見せる。

両親は「坂上さんのいうことをきいとくんだった」と言って消える。

 

マヒコは坂上さんが今は入院している神主さんだと知ってお見舞いに行く。

この坂上さんが『残酷な神が支配する』でジェルミを助けたアダン・Z・オーソンにそっくりなのだ。わ、笑う。

もうこれから『残酷な』読み返してオーソンさんのとこ来たら爆笑する。

感動シーンなのにwwww

萩尾センセおふざけがすぎる。

本作でも主人公マヒコに助言するという同じ役である。

ちなみに末期のガンというのも同じ。萩尾先生~~~。

とにかく坂上さんはマヒコたちが住む丘の上にはかつて大きな黒石が埋まっていたという。

どうしても動かないのでそのまま盛り土して分譲地となってしまった。

その上にマヒコたちの家は建っているのだ。

神主である坂上氏は毎年護摩を焚いて家の安全を祈っていたが発病で入院しその祈禱ができなくなってしまったのだ。

両親の「坂上さんの言う通りにしていればよかった」というのはこのことだった。

 

 

霊感姉・静香もマヒコを助けようと画策するがアズにいはこれに抵抗する。

そこへ一斗兄貴がサハラ砂漠から帰宅した。

マヒコはすっかり忘れていたが三年前にアフリカに井戸掘りに向かった兄だった。

現実主義の一斗にはこの家の霊がまったく見えない。

 

マヒコが見た女の子エヒメは1500年ほど昔黒い石がこの丘の上に天から落ちてきた時、12歳の彼女は生贄となったのだ。(悲しい)

その時から彼女は子供を殺してはその身体に乗り移ろうとしたがうまくいかずついにマヒコに会って今度こそはとマヒコに接したのだ。

だがエヒメは逆にマヒコに吸い取られてしまう。

 

黒い隕石をアズにい、らしき何者かはずっと狙っていたのだと言う。だが数年一緒に暮らすうちにマヒコを好きになてしまったアズはそれはマヒコが死んでからでいいと言い出す。

エヒメを吸い込んだマヒコが今はその石の主になってしまったというのだ。

 

様々な謎を残したまま第一話は終わる。

 

萩尾望都は時々こういう軽いノリの不思議なファンタジーを描く。

しかしその設定が重く暗い『残酷な神が支配する』と同じ、というのはまたおもしろい。

つまり設定の軽い部分が本作『あぶない丘の家』になり重い方が『残酷な神が支配する』になって沈んだというのか。

このキリキリした眉のマヒコは後の『バルバラ異界』の主人公へとつながっていく。

萩尾先生の美少年像は『3月ウサギが集団で』の伊古賀いつく君からみゃくみゃくと受け継がれているな。