
ネタバレします。
第4章 阿加流比賣(あかるひめ)
筑紫の島の東の端 国の前
この海の向こうの常世へ行こうとするオオタラシが誓約するにはふさわしい場所ではないかと考えた。
波打ち際に鳥居が建てられていた。ずっと前、赤女の村にあったものと同じであり日矛の神籬にあったものだった。
ミケツは数人の若者たちと幡(凧)をあげていた。
海の向こうから隼人の船が近づいてくる。
が、反対側からは息長・百済将軍をはじめ海人たちの船がやってきた。
息長は菟狭津彦に向かい「わしらを隼人にぶつける気だな」と断じた。
菟狭津彦は慌てて「そういうわけではない」と遮る。
ともかくも皆、女島へ上がる。隼人の大船団は向きを変え別の入り江に入った。
夜になりオオタラシは日矛も持たず無心になってひとり海神の言葉を聞くことにする。
武振熊も到着し菟名手の方についた。
ひとり海の中に入りまた浜に上がり海神の言葉を聞こうとするオオタラシの姿を見てミケツは日矛を取り上げオオタラシの側へと走った。
そしてオオタラシに日矛を渡して戻り自分にも七枝刀を欲した。
オオタラシは日矛なしで祈ろうとしたのにミケツに渡された日矛に戸惑うがむきになるのはやめようと考えた。
「私はミケツのために誓約するのだから」そしてこれも海神の啓示なのだと感じた。
「海神の声が聞こえないなどと二度と言いますまい。ミケツがあなたの言葉なのだから」
夜が明けてきた。
オオタラシはまだ浜辺にうずくまったままだ。
その時、隼人船団が動く。
「迎え撃て」と叫ぶ者を塩土は止めた。「誓約が終わるまでは動くな」
皆が固唾をのんで見守った。
隼人船団が近づく。
オオタラシが顔を上げた。
ゆっくりと浜辺を歩き鳥居に近寄った。
隼人の船が止まる。陽が昇るのを待っている。
息長・百済将軍は落ち着いている。
オオタラシは浜辺を幾度となく往復するが声が出ない。言葉が出てこないのだ。
海神よ。
その時、陽が昇り鳥居の中に浮き上がった。
瞬間、オオタラシの言葉は流れ出た。
「海人たちよ。菟狭津彦、百済人、息長、菟狭や国前の者たちよ」
オオタラシは日矛で東を指した。
「その東の果てで天と海とは出会いひとつになる。そここそが常世じゃ。
常世で日ごとにお生まれになり西の彼方へお隠れになる。
日矛もて斎き祀る天疎る日の神、阿加流比賣じゃ」
人々は歓声を上げた。
ミケツは七枝刀を掲げてオオタラシの側に駆け寄った。
百済将軍は自らの乗る船を隼人船団に近づけた。
隼人船団はいっせいに矢を向けたが百済将軍の船には隼人の厚鹿文が乗っていた。
その両手には潮満珠・潮干珠が握られていた。
隼人大船団はみるみる退いていった。
「見よ。隼人も誓約を肯った。海神が如意の玉をくだされて隼人を退かせたのだ」
これを見た菟名手は「くそっ戦にはならんのか」と呻く。
背後にいた武振熊は「戦はある」と言い菟名手は「どこで?」と問うた。
「ここでだ」と言い放った武振熊の剣が菟名手の首を斬り落とした。
菟狭も国前も海童に降ったのだ。
オオタラシは説く。
「常世への海道は開けている。けれども私たちは強ちに東へは進みますまい。海神は戦をせずとも常世へ行ける道を示して下さったのだから。たとえ何年かかろうとも私たちは必ず常世へ到るでしょう」
三巻「阿加流比賣之巻」終了です。この物語の舞台をあげておきます。

一巻の最後でわたしはすっかり完結だと思い込んでしまいましたが今回も完結だと思ったのですが他の方の意見や作者氏のあとがきを見ても未完のようです。
しかしまあ歴史に終わりはないのでどこまで行っても未完ではあるしここで終わっても問題はない気もします。
というか、一巻の最後と今回の最後、あまり違わない気もしますw
オオタラシが「もう迷わない」という決心をしたといえばそうですが物語が続けばまた迷いそうですしw
謎の子供ミケツは謎のままですし磯良もあまり変化していないし。塩土はいつまでも塩土です。
白土三平の『カムイ伝』がとうとう未完のままだったのと重ねてしまいます。
が、どちらの作品も未完であっても素晴らしいものです。
なにしろ長大な作品を描く間に作者自身も時代も変化してしまう。
歴史物語は未完にならざるを得ないのかもしれません。