萩尾望都マンガは脇役も生きてるしちゃんと描いてくれるのでとても好きだ。
表紙の猫も良い。もちろんリンドンさんも。
ネタバレします。
イアンは大切なテストも放り出し今度こそはジェルミを救おうとアメリカボストンまでやってきた。
イアンの周囲の人々は彼を心配するがイアンにとってジェルミを見捨てることはできなかった。
この行動は多くの物語で行われないものだ。
たいがいは大切な人が失われ「あの時ぼくが追っていれば」という後悔の言葉によって締めくくられるのだが本作でイアンは後悔をしない行動をとる。
だがその行動はそう簡単には達せられない。
リンドンが言う通りイアンはジェルミが彼を必要とした時に何度も裏切ったのだ。
ジェルミにもう一度信頼してほしいというのは無理筋だ。
が、ここで売春仲間のキャスが関係してくる。
いわばジェルミは仲間のキャスを助けたくて更生施設の料金を払ってくれるというイアンの提案と引き換えにイギリスに再び行くのである。
キャスのキャラがとても良い。
彼が更生してもっと大人になったらすごく魅力的な人になれると思う。
こういう人物を丁寧に描いてくれるのが萩尾マンガの醍醐味である。
そうしてジェルミはイギリスへと戻る。
さすがに恐ろしい思い出のあるリン・フォレストへは戻れない。
このあたりからジェルミの生活はこれまでの静かなある意味暗い色調からうってかわった騒がしく雑多な色調へと変わっていく。
ジェルミはイアンの恋人ナディアのアパートに泊まるのだがそこには音楽仲間が同居していてうるさいといったらない。
イアンはジェルミとふたりきりで落ち着いた旅行をしようと計画するのだがこれになんとマットとナターシャそしてナディアも参加したワイワイした旅行となる。
途中でナターシャがジェルミに対する後悔と自責の念で逃げ出してしまう。
マットはナターシャがいなくなったことに怯え「みんないなくなってしまうの。みんな勝手だ」と泣きだす。
イアンはマットに「みんな勝手に生きていくんだ。恋しくてもいいがいないことに慣れるんだ」と話す。
イアンはジェルミと暮らすアパートに移りナターシャが戻るまでマットも暮らすことにする。
イアンはジェルミに3つの条件を言い渡す。
「カウンセリングに行くこと」
「薬をやめること」
「体を売らないこと」
ジェルミは守ると約束する。
が、早速イヤミな虫がわき「あんたがパトロンになるんじゃなかったの。キスしないの」とイアンにすり寄る。
イアンはぐわし(まことちゃん?)とジェルミの頭をつかみ「もうひとつ、オレを誘惑するな、薄汚い目つきで」と言い放つ。
このジェルミの「イヤミ」がどうしても彼にまとわりつく。
なにかふざけたことを言わないと我慢できないのだ。
かつての彼はそんな性格ではなかったのだろう。
グレッグとの生活がどうしてもジェルミをイヤミにする。
ジェルミはイアンとともにカウンセラーを訪れる。
ここで不思議少女マージョリーと出会う。
後にマージョリーはナディアの妹だとわかる。
親切な美女ナディアは実は母娘の関係で「母から愛されないほうの娘」なのだ。
そしてマージョリーは「母から愛されている娘」だがちょっとずれているところがありカウンセリングを受けている。
(っていうか母親が受けるべきなのでは)
がこれは後の話。
ジェルミはカウンセラーからの質問が下らないと感じ逃げ出そうとするがイアンからの条件もあって我慢するが家に帰って「もう行きたくない」と泣きだす。
イアンはリンドンの仲間にジェルミを会わせる。
そのうちのひとりがこっそりとジェルミに性的奉仕を条件にマリファナを渡す。
ジェルミはカウンセリングを続けるがカウンセラーのペンと話をするのを拒否する。
ペンはやむなく集団カウンセリングの部屋を勧める。
ジェルミはそこでマージョリーそしてかつてジェルミの癒しとなったバレンタインの双子の兄エリックと出会う。
エリックもまた変わった少年なのだが既に妻ポピーと赤ん坊のエボニイがいるのだ。
ジェルミはバレンタインにそっくりなエリックと話をしたかったがマージョリーに絡まれて中断してしまう。
マージョリーは迎えに来たママとその恋人のロレンツォを突き放しジェルミと家に帰る。
家にはいとこのパスカルという男がいてシロップを飲んで飛ぶ。
マージョリーがシャワーに行ったすきパスカルはジェルミに薬をあげるからと身体を求めてくるのだがそれを裸のマージョリーが覗き込みに来る。
慌てて服を治すジェルミ。
そこへロレンツォが入ってきてマージョリーのママ・クレアにふられたからといってパスカルを部屋へ連れて行く。
「ヘンタイ!ママにいいつけてやる」と叫ぶマージョリー。
そして裸のまま眠くなって寝てしまうマージョリーにジェルミは毛布を掛けてやるのだった。
はっきり言って外界はジェルミが今までいた世界よりもはるかに狂っている。
カウンセリング一回目は泣きだしたジェルミが今回はイアンに「まぁおもしろかった」と報告する。
マージョリーの話をするジェルミに良い傾向だとイアンはほっとする。
イアンはジェルミを誘ってロンドンフィル野外コンサートへ行く。
そこにはナディアの家族が夏の夕べのピクニックをする予定なのだ。
夏の夕べの野外コンサート。
ジェルミ、イアン、ナディア、ナディアの母クレア、マージョリー、クレアの弟で牧師のペリーとその息子パスカル、そしてロレンツォが加わる。
ロレンツォはハンサムなイアンに興味を持ちジェルミを押しのけて横に座る。
イアンはナディアに電話で自分がどんなにナディアを愛しているかとささやく。一緒に住みたいと伝える。
直後、ジェルミがパンジーに誘われ数人の男たちと薬をやりながらの乱交パーティの部屋に入ったのをサベージが見かけイアンに知らせる。
ジェルミを救い出したイアンにジェルミは「できないだろ。あんたにはやれないだろ。ぼくのところまで堕ちてこれないだろ」と突きつける。
イアンはジェルミを抱く。
ジェルミはイアンを利用したことに苦しみすすめられるままナディアのアパートに泊まる。
イアンは自分の行動に戸惑い「なかったことにしてもらおう」と決心した。
だがジェルミがナディアの家に泊まり帰りたくないと言っていると聞き茫然とする。
ジェルミはカウンセラーを訪れペンの前で泣く。
ペンもまたその涙につられ泣いてしまう。
ナディアはジェルミになぜイアンと喧嘩したのかと聞く。
ジェルミはこれまでのことを全部ナディアに話してしまう。
ナディアは激しく泣きだし仕方なくジェルミはイアンに電話してきてもらうのだ。
この「わたしに話して」と言ったくせに聞くと泣きだす、というナディアの描き方よ。
たしかに嫌な女だよなあ。
イアンはナディアをなだめジェルミと一緒に家にアパートに戻り「あの夜のことはなかったことにしてくれ」と話す。
ジェルミは「普通なら金をもらうから」と言い出す。
またもカッとなったイアンは金を渡しキスをする。
「これだけじゃもらいすぎになる」というジェルミの手を引いてイアンは再びベッドへと向かう。
この都合よく行かなすぎる展開よ。
上手くやろうと思えば思うほど違う方向へと進んでしまうのだ。
人生はそういうものなんだろうか。
なにかを手に入れるために何かを失わねばならないのだ。