ガエル記

散策

『蟲師』漆原友紀 その6

 

ネタバレします。

 

「錆の鳴く聲」

いつものことだが不思議な話だ。

”しげ”という娘が声を発するとそれを聞いた人々が錆びつき動けなくなっていくという。

はっきりと証明されているわけではないが村人は皆その娘の声が原因だと思っている。

それはしげ自身は錆びついていないがその家族は錆びついて動けなくなっているからでもある。

村人はしげのせいで家族が動けなくなっていったと恨んでいる。

そうなってから十年前しげは話すことをやめた。

が、その病は進行し続けている。

 

その治療のためギンコは呼ばれた。

村でまったく錆びついていない若者テツに出会う。

 

まったく錆びついていない男の名が”テツ”というのが面白い。一番錆びつきそうな名前なのに。

 

ギンコは”しげ”に会い「この病は治せる」という。

しげは話し始める。

 

アニメでは”しげ”の声はどうなるのだろうと期待してみたが、ややハスキーよりなだけで普通の声に聞こえた。

私としてはもっとドスの効いた割れたような声にするかと思っていたので拍子抜けだったが一般に放送するものなので「そうした声で人が錆びついてしまう」という風評被害を出さないための忖度なのかなと思ったりもした。

もっと太い声、なんなら男性にしてもよかったのではとも思う。しかし問題になるなら仕方ない。

 

ギンコはしげの話し声を聞いて理解する。

“野錆”という蟲の出す音を大きくしたのが”しげ”の声だというのだ。

野錆は生物の死骸について分解する害のないモノだがしげの声を聞いて山中の野錆が集まってきたのにそこには餌=死体がない。

やむなく生きている者にまでついてしまったのだという。

 

だがギンコがしげを使った蟲払いをする前に村人がしげを襲おうとしギンコは彼女を海に面した山に行けという。

テツはしげと共に山へ行くがそこで崖から落ちてしまう。

救けを求めてしげが叫び声をあげた時、村を覆っていた野錆が離れていった。

 

ギンコが行おうとしていたことをしげは自発的にやってしまったのだ。

山の中で叫ぶことで村に集まった野錆を村から追い払うのだ。

野錆は潮気を嫌うらしい。

しげがテツの生まれ故郷である海村に行くことでもう苦しむことはないのだ。

そしてそれからも山の中で唄う声が谺することがあったという。

 

 

「海境より」

以前は「この話はマンガ家の比喩で」ということばかり考えていたけど三巻に入ってそうそう簡単な比喩ではなくなった気がする。

 

男の心無い一言が取返しのつかない事態を生んでしまう。

「お互いもともと打算もあったろ。来たくなけりゃ来なくていい」

その言葉で妻の心は離れてしまい男のもとに戻ることができなくなったのだ。

 

 

二年半男は妻を待ち続けそしてギンコと共に舟を出し一瞬だけ出会いそして消えていった。

 

男はずっと悔み続けただろうが取り戻すことはできないのだ。

そういうものなのである。

 

 

「重い実」

己に課せられた重い罪。

村人を救うために一人を犠牲にしなければならない。

そのひとりが己の妻だった。

そして己自身が犠牲となる決意をするがギンコはひとつの賭けを勧める。

 

男は不老不死となりその地をいつまでも見守ることになる。