ガエル記

散策

『アリスとシェエラザード ~騙し絵の館~』諸星大二郎 その1

ネタバレします。

 

第17話「騙し絵の館」

アリスとシェエラザード、さる貴族からの依頼である屋敷に迎えられる。

依頼とは絵画「屋敷内にあるレディ・ジェーン・グレイの処刑」と「サロメ」を捜して広間に持ってきてほしいという風変わりなものだった。

絵画はどちらも複製画である。

 

あまりにも奇妙な依頼だがふたりは早速屋敷内を見て回る。

ところが屋敷内のあちこち、ドアやカーテン、暖炉までもが騙し絵となっているのだった。

抱き合う男女がいると思ったらそれも絵だったのだがそこに描かれていると思ったドアは本物だった。

そのドアを開けるとあっさりと「レディ・ジェーン・グレイの処刑」の絵画があったのだが何かが違う、とアリスは思う。

とにかくそれを運んでいる途中でアリスは騙し絵にひっかかり水を浴びてしまう。

やむなく用意されていた衣服に着替えたのだがそのドレスはジェーン・グレイが来ているものによく似ていた。

 

二枚目の絵の捜索にとりかかったふたりは騙し絵のトリックにも馴れてきてすぐにサロメの絵を見つけ出すのだがその絵自体が壁に描かれたもので運ぶことができない。

が、ここにもトリックがありその絵の半分はキャンバスに描かれたものだと気づきアリスたちはその半分だけを運ぶ。それはサロメの持つ首を斬り落としたと思しき首切り役人が描かれたものだった。

 

ところが気になる事があったシェエラザードはアリスを待たせて自分だけ元の絵の場所に戻る。

その絵はサロメが皿の上に首を乗せているものだったのだが、なんとサロメはあのユディットであり皿の上の首はシェエラザードだったのだ。

 

一方取り残されたアリスはひとりで半分の絵を広間に運ぶ。

そこでアリスは先ほど運んだ「レディ・ジェーン・グレイ」に感じた違和感は後で運び込んだ首切り役人の絵を繋ぎ合わさなければならなかったからだ、と気づく。

今、やっとひとつの絵になったのだ。さらにアリスはジェーン・グレイの顔を覆う目隠しの布が本物だと気づいて取り去る。そこに描かれていたのはアリスの顔だった。

その途端アリスは突然体が動かなくなってしまう。

そして絵の中の首切り役人が外へと出てきたのだ。

 

ふたりはそれぞれの自力でこの窮地を逃れる。

ふたりの前には傷ついたユディットがいた。

シェエラザードはユディットに対して剣をつきつける。

アリスは慌ててこれを止めユディットに「あなたが全部描いた絵なの?あなたは才能があるわ」と呼びかける。

ユディットはこの言葉に抗い逃げ出した。

 

シェエラザードはアリスの態度に呆れたがアリスもシェエラザードが本気でユディットを殺そうとしたとは思えなかった。

 

第18話「メイドが来たりて皿が飛ぶ」

長く諸星大二郎作品を読んでいるとやはりその嗜好趣味はわかってくるものだ。

主人公アリスとシェエラザード女性二人はどうしたって栞と紙魚子だしユディットはよく出てくる乱暴な悪女である。例えば『西遊妖猿伝』のサソリ女とか。

そして今回登場(というか再登場なのだが)するスージータイプの女の子もまた、という感じである。

そしてとんでもない力を持っていたりする。

 

冴えない容姿でとろい奴だと侮られるスージーだがポルターガイスト現象を起こす力を持っている。

(こちらも冴えないのだが)強盗に利用され鍵を開けて中にいれてしまうスージーだったが気絶したままポルターガイストを引き起こし強盗を倒してしまう。

アリスたちの家にまたとんでもないのがやってきた。

 

第19話「赤い屋根の家」

な、なんとなく萩尾望都ポーの一族エドガーとメリーベルを思わせる兄妹が登場。

妹の名はメアリーだし?

 

ウェールズのバラ村に生まれたジム・マークスはアリス邸を依頼で訪れる。

十年前行方不明となった妹のメアリーの捜索願いだった。

幼い兄妹は森の小径を通り赤い屋根のきれいな屋敷に辿りつく。

そこにはきれいな女性がいてふたりを招き入れてくれた。主人らしき男もいた。

女性が妹メアリーを別の部屋に誘っている間ジムは部屋にあった帆船の模型を抱えうっかり舳先を折ってしまう。

慌てたジムはメアリーの姿が見えないのに気づき屋敷中を捜しまわる。

ある部屋から物音がするので覗き込むとそこではあの綺麗な女性が先ほどの主人らしき男に短刀を突き立てたのが見えたのだ。

女性がこちらを振り向きジムは逃げ出した。

しかしメアリーはそのままだ。

ジムは家に帰ると家族に知らせ大人たちとそこへ戻ったのだが、あのきれいな赤い屋根の屋敷はなく古びた屋敷があるばかりだった。

そこにはミス・ポーリンという老嬢が二、三人の使用人と共に住んでいるだけだったのだ。

彼女はむろん赤い屋根の屋敷もメアリーも知らなかった。

大人たちの捜索も虚しくメアリーは見つからず、ジム自身にも疑いを持たれたが「夢でも見ていたのだろう」ということでそのまま彼女は行方不明とされてしまったのだという。

 

ジム自身はその後もあきらめきれずメアリーの行方を捜したものの何も見つからないまま大人となってロンドンで働きだした。

それがひと月前とある骨董店であの舳先を壊した帆船の模型を見つけたのである。

ジムはその模型を買って家に持ち帰ったのだがそれから奇妙な夢を見るようになる。

それは妹メアリーが兄を呼ぶものであったりあのきれいな女性が短刀を振り上げているものであったりした。

ジムはやはりもう一度妹を捜そうと思い立ちアリスを訪れたのである。

 

アリスとシェエラザードはジムと共に彼の故郷へと向かった。

 

となんとも興味を惹かれる物語なのだがこの結末がほんとうになんというか寂しいものなのだ。

三人はメアリーが行方不明となった森の奥の古びた屋敷に行く。しかし住人だったミス・ポーリンはすでに死亡しその家は売りに出され管理人の男が一人いるだけだった。

その管理人はもとの執事だという。

三人はその元執事に話を聞くがジムは話の途中で気を取られ外へと出る。

そこには赤い屋根の綺麗な館があり妹メアリーはあの時の姿のままでそこにいたのだ。

そしていつしかジムもまた少年に戻っていた。

 

古びた屋敷に住んでいた老嬢ミス・ポーリンこそがあのきれいな女性、であった。彼女は若い頃結婚を考えた男性がいたのだがそれが破局して以来ずっと一人で暮らしていたのだという。

ミス・ポーリンは赤い屋根の綺麗なドールズハウスを持っていてその中に若い男女の人形を入れて結婚生活ごっこをしていたのである。

だがある時使用人が目撃してしまったのがミス・ポーリンがその男の人形の胸に短刀を突き立て何度も刺している場面だったという。

 

そして幼い兄妹が訪れあの事件となったのだがその後ミス・ポーリンのドールズハウスには小さな女の子が置かれていたのです、とただ一人管理人として残った元執事が話した。

元執事はアリスとシェエラザードにドールズハウスを見せる。

するとミス・ポーリンである奇麗な女性の人形と女の子の横に男の子の人形があったのである。

 

なぜジムが妹メアリーを救い出す話にならなかったのか。

冒頭、『ポーの一族』を思わせる、と書いた。

ジムとメアリーはいつまでも少年と少女のままで暮らすのだということなのではないか。

その世界は寂しい世界なのではないだろうか。