ガエル記

散策

『幸福路のチー』宋欣穎

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実をいうと本作中身を見るまでは期待していませんでした。日本やアメリカ・フランスのアニメを見なれてしまった目には本作のポスターとなるイラストがあまりに稚拙に映ったのです。

同じように感じた方はその偏見を捨てて内容を観てください。きっと目にはまっていたウロコがぽとりと落ちるはずです。

 

 

ネタバレもしますのでご注意を。

 

 

 

 

観ている間ずっと泣いていた、と言う表現はおかしいし大げさですが映画111分の間かなりの頻度で泣いてしまったのは確かです。

 

一時期中国映画にはまっていた頃、台湾作品も多く観ました。それで感じたのは「どこか昔の日本の風景を思わせる懐かしさ」でした。

ただし人情は日本人とは比較できない熱さ&厚さがあります。この人情の熱さ&厚さは白けている(私を含めた)日本人から見ると信じられないほど強烈に感じました。

 

この作品もそうした私が持っている台湾作品のイメージそのものでした。

これも勝手な思い込みで失礼なのですが他の映画で観てきた台湾の風景は日本よりも少し遅れて進んでいるように思えていました。

(とはいえこれは以前の話で今現在は台湾が先に進んでしまったのではないでしょうか)

作監宋欣穎(ソン・シンイン)は1974年生まれと書かれているので1963年生まれの私が懐かしいと思うにはちょうど計算が合っています。(いやあくまで思い込みです)

 

しかしこの映画を観て「懐かしさを感じた」のは私だけではなく世界中の人だったと書かれていました。

 

小さな町に生まれ育ち裕福ではないし優れた両親でもないけれど甘えたり怒られたりして成長し友達を作りいろいろな衝撃を受けて人生を学んでいく、それは多くの人に共感できる子供時代なのだと思います。

 

特にチーが夢想家で物語やマンガにどっぷりはまり込んでいるようなところはまるきり自分の少女時代と同じなのですが、これも多くの人がそう感じるのでしょう。

 

そうした懐かしさを感じさせながら物語は台湾の歴史を辿っていきます。民主化運動、大地震、これまで他の台湾映画で観て知ったことでした。

 

そしてこの作品でもっとも重要な印象的な人物であるおばあちゃん。私は残念ながら自分自身のおばあちゃんにそれほど接することがなかったのですがこのおばあちゃんのイメージに重ね合わせる人物がいて何度も泣いてしまいました。

小さくて頼りないチーを何度となく助けてくれたおばあちゃん。ある時は鶏を捌いてチーにショックを与えたりビンロウを好物としているために他の人から野蛮人と言われてしまう。

チーはおばあちゃんが大好きだけど反面恥ずかしく思う部分もあって、だけど成長すればするほどおばあちゃんがいかに大切な存在だったかが身に染みてわかってくるのです。

 

台湾はもともと住んでいた人々がいて台湾語があったのですが中華系が移り住んでくることで普通語(中国語、北京語ともいう)を国語にされてしまいます。

本作品でもその二つの言葉が話されています。

 

 

今まで観てきた台湾映画もまた観なおしたくなりましたし、観ていないいろいろな作品ももっと観たくなりました。