2017年公開映画に対してやや遅いかもしれないけれどあまりにも好みすぎて泣きたいほどの映画でした。
他のレビューを見ると「気持ち悪い」「音がうるさい」「意味が解らない」などの悪評が目立つのですが私にとってはそのどれもが素晴らしいと思えるものです。
気になるのは小さな女の子にとってショックな演技になっていなかったのかと心配になる点です。何かしらの対処をされていたのだったらいいのですが。
それを除けばほんとうに久々に見入ってしまう映画でした。
ネタバレしますのでご注意を。
悪評が多いのはこの映画に関しては不思議とも言えないのでしょう。
理詰めで考えれば奇妙な点があちこちにあります。
小さな島で育った信之・輔・美花の三人が断ち難いつながりを持っている関係が描かれていくのですが、ではなぜこの時期になるまでは再会していなかったのか。
信之がそれほど好きだった美花と離れ芸能人になっていたのをテレビで初めて知る、という描写も奇妙でもありますし輔があれほど固執する信之と長い間接点を持たなかったのも変です。
しかし人生においてそういうことはあり得るとも言えます。
信之も輔も離れようと努力したのに結局断ち切ることができなかった、のではないでしょうか。
それに美花と信之を脅迫に使った写真も中途半端です。
あの死体の写真だけで果たして二人を殺人罪にできるのか、時間が経ちすぎているのもあるし例え警察に持って行ったとしてもスキャンダルとして芸能誌に持ち込んだとしても相手にされないように思えます。
しかし逆に三人にとってはそれほどあの時間が強烈な印象で誰もがそう思うだろうと信じ切っている、と言う意味にも思えます。
物語は断片的で説明的ではなく説明しようともしていない。描かれるのは三人、というより信之と輔の奇妙な関係だけです。
ふたりは同性愛の関係のように見えてそうでもない。
輔は信之に絶えず愛情を求めています。信之は完全に無視するわけではなくなんとなく思わせぶりに彼に愛情を少し与えます。
この愛し方は残酷です。
美花の信之への感情が残酷なように。
「良いも悪いもない」
この映画の主題はここにあるのです。
そして『星の子』もそうだったし大森立嗣監督の映画はどれもそうなのかもしれません。
人間性も人生も「良いも悪いもない」のです。
ただ存在する。
小さな世界に生まれ育った三人の物語でした。
部外者である奥さん役の橋本マナミさん、ものすごく色っぽい。
こんな色気があるのかとまじまじ観てしまいました。
信之と輔をこの女性の性愛が連結するという。
ラスト、輔は木になります。
これ、松本清張の短編で女が関係した男を殺した後、木の養分にする、というのがありますがそれを思い起こさせました。