ガエル記

散策

『Marginal/マージナル』萩尾望都 その5

 

さてここから第2巻に入ります。

少し脱線して、この物語が何故男ばかりの世界かというのは誰も別に疑問にはしないかもしれませんがもし女性だけの世界の物語にすればたぶんほとんど問題は起きないからでしょう。

西遊記』にも「女人国」というのがあったけど女性だけでなら精子だけもらって受胎することが出来れば他に何の不都合もない気がします。

女性だけの国の話は安泰すぎてSFにもならないのかもしれません。

 

ネタバレします。

ここから先は全体を通してのネタバレをします。

 

第8話「レクイエム」

この回で重要な開示がされる。

ネズは民俗学者で地球に30年以上いる。ということは彼は年齢が50~60歳だと考えられる。

平均寿命が30歳と少しであるこの地球においてこの年齢はあり得ないだろう。

たぶん誰もがネズのことをせいぜい20代後半から30歳そこそこと思っているはずだ。なぜなら30歳を越えると急激に老いてくるというのだから。

ネズの証言でこの30年間にプロジェクトの不備でサハラとゴビの二つの年が消滅したこと、地球に残る11のドームで物語の舞台となるモノドールが最大の都市だと判る。

地球は2300年に”異変”が起きそれ以来海をはじめすべての水が汚染されたのだ。

(つまりこの地球で供給されている水はすべてカンパニーで浄化された安全なもの)

さらにメイヤードはゴー博士から大学時代の親友でありイワンの妻となったアーリンから3か月前に突然「助けて」という連絡を受けたのだと言う。

とぎれとぎれの言葉で「地球、ユーフラテス地区の森、イワンと一緒に研究、密入国18年前、イワンが狂った、子供たち、助けてゴーこわい、4人のキラ」と。

メイヤードは「バカな。地球では子供は生まれない。子どもを生むべき母体はD因子に感染した時点で受胎能力を失う」と説明する。

「マージナルのプロジェクトではカンパニーが尽きの市民から卵子を買いそれを地球に輸送してセンターの無菌の地下で受精させる。精子はすでに病気に対する抗体を持つマージナル市民のもの。この抗体はY遺伝子のみにつくために男しか生まれてこない。人口子宮で育ち生まれた子どもはナンバーをつけられ父親のもとに送り返される」

そしてメイヤードはイワンの研究内容を問う。

ゴー博士は「よくわからない。禁止されていたクローニングなどもやっていたが」そして「キラというのはイワンの母親の名前だ」と告げた。

「子宮が考えている、と言っていた」

 

アシジンはキラをレイプし自分のものにしようとしたが逆になぐりつけられ逃げられてしまう。

 

ミカルと仲良くなったローニはセンターの職員であり同性愛者ゆえにかミカルに好意を持っている男に接触する。その男はエメラダが飼っていた鳥をなぜか捕獲していたのだ。

 

第9話「イワンの研究について」

この地球での不妊問題は萩尾望都自身の『スター・レッド』における火星の状況に酷似している。

火星では子供が生まれずクリュセの地下のみで妊娠が可能だった、というものだ。

クリュセのみで妊娠できる」という説明は不思議なものだったが今回の不妊理由と妊娠理由は納得できる。

氷漬けになった恋人のエピソードなど様々な以前使われた要素が組み合わされていく。

大学時代(二十歳頃)に親友だった三人組が一人だけ切り離されてしまう、という『十年目の毬絵』以来の萩尾望都のトラウマともいうべき事態がここでも繰り返されるが本作ではゴー博士を切り離した天才ふたりは完全な狂気の人物となっている。萩尾氏のトラウマもこの作品で完全に浄化されてはいたのか。

(イワンが行おうとしていたのが「父親が我が子との間に子供を作る研究」だった。父親であるイワンの血はつながっていないが妻から見れば「我が子と我が夫との間に子供ができる」ことになる。卵子精子という形での関係とはいえ妻であり母親であるアーリンにとっては狂気としか思えないだろう。しかもその我が子たちは義父であり我が夫でもあるイワンを喜ばせたいと行動するのだ。

しかしこの事態を科学者であるアーリンが受け入れ面白がっていたらどうなっていたのか?

ここで母親嫌悪が働いたからこそ『マージナル』は生まれる)

 

ゴー博士はメイヤードに大学時代の三人の話を語る。

イワンは研究室で奇妙な研究をして狼男のような叫び声をあげた。

イワンは語った。

かつて子供時代に離婚した父親が母親をレイプし母は恐怖のあまり狂い自殺する。

 

2300年、人類は最終戦争はさけたものの限りない人口増加と長命医療で農業も工業も地球中が薬漬けとなる。

活火山が増え炭素が増え海面を覆いつくす菌類の歯性がひと夏で起こった。

新種の菌のD因子が不妊を引き起こした。解決できないまま二百年が経ちひとりの子どもも生まれなくなった。

 

イワンは研究を秘密にしてしまう。親友だったゴーは気になり彼の部屋へ侵入しその研究を垣間見る。

ゴーは問う。「何をしているんだ?」

「夢の子どもだ。無限に幸福で誰とも共感性を持つ子どもだ。苦しまない人間。子宮が美しい夢を見たら苦しみの無い魂を持つ子どもが育つだろうか」

「生物が恐怖を覚えるのは何億年も昔だ。何億年も前に脳に刻み付けられたトラウマからのがれられないのか?」

「イワンのことだからつくったのかもしれない。4人のキラを。その子らを何故アーリンは怖れたのか。それはイワンとアーリンのこなのか。・・・カンパニーはイワンの研究を知っていた。4人のキラのことも」

 

アシジンを殴りつけひとり砂漠へ出たキラはグリンジャの名を呼び続けていた。

 

第10話「死霊」

アシジンはマーゴと共にキラを探す。

が見つからず代わりにならず者たちがキラと遭遇し手籠めにする。

一方、アシジンはフェロペの死霊に会い「裏切るな」と釘を刺される。

 

モノドールではゴー博士がネズにこの社会の仕組みを教わっていた。

「色子制と親子制を覚えたらマージナルの社会機構のおよそは理解できる」という。

ゴー博士はなぜ「マザ」が必要なのかを問う。「不要のはずだ。胎児は人口子宮で育てるのだから」

「宗教が必要なんです」とネズ。

しかしゴーには理解できない。

「例えば皆を火星か月に脱出させればいい。こんなプロジェクトは無意味です」

 

キラはならず者たちの都市に連れていったやるという言葉に騙され従っていたがその気はないのだと知ってならず者の片割れを殺す。

センターのマシーナは一人が死んだことを知りそのそばに子供が立っているのを見つけるが表示がされないことに驚く。