残念なことに私が『寄生獣』をまったく読んでいないので原作との照らし合わせなどの面白みを味わえないのですが、その上での感想です。
ネタバレします。
そして本作自体も今回初読みだったのだが原作『寄生獣』を読んでいないのが悔しいほどの名作ではないのか。
私がこれから原作『寄生獣』を読むかどうかは未定だが知らずに本作の感想を持つのは読んでからではできないので原作未読の本作への感想もまた良いのかもしれない。
本作の主人公・由良は病院の中の病室で三歳までを過ごし「ふつうの子」と診断される。
神田夫妻の養女となって神田由良として成長する。
感情表現のない由良に神田家の人たちは優しく接してくれているようだ。
海を怖がらない由良をじいちゃんは頼もしく思っている。
しかし由良の頭の中ではいつも声がしていた。
ダマレ
コロセ
それが海では声が聞こえないのだ。
波の音のせいだろうか、と由良は思う。
由良は石川充という少年と同級生になる。
けんかっ早くいつも反発してばかりいる少年だが出会った時海で溺れそうになったのを由良が助けたのだ。
充は叔母の愛子と暮らしている。
由良はある日おばあちゃんの趣味の能を見に行く。
退屈で寝ていたのだが突然はっとして目覚めると男の人が舞っていた。
その男の人が女の人の姿となりこっそりと竜宮の宝の玉を盗み出す。
竜に追われるとその女性はお乳の下を切ってそこに宝の玉を隠したのだ。
由良が能の振りを全部覚えているようだと家族で話し由良は週に一度日本舞踊を習い始める。
が、踊りの先生の兄が由良の踊りを見て「性能の良いコピー機だね。創造力がない」と言うのを聞き踊るのを止めてしまう。
踊りを止めたらまた声が聞こえるようになってしまうのだ。
残酷な言葉だな、と思う。
その後、由良は仲良くなった充に「人を殺したいって思ったことある?」と聞く。
これは誰のことを言っているんだろう。
踊りの先生の兄?
だがあのケンカばかりで短気な充は答える。
「人間は人を殺しちゃいけない。人を殺したらそいつはもう人間じゃなくなるんだ」
誰に対しても怒ってばかりいる充が由良には穏やかに心を開く。
ここで恐ろしい事態が起きる。
充の兄の一生が石川愛の家にやってくるのだ。
一生はどうやら少年院から出てきたばかりのようだ。
由良は知らないまま一生と話をするのだが、その後一生は愛に話しかけ愛は驚き一生を自分の車に乗せて走り出す。
その車の中で愛は一生がどんなに残酷な性格をしていていたかを話し「私たちにかまわず帰って」と叫ぶ。
一生はそんな愛に襲い掛かる。
充は愛を探し回る。
が、目の前に現れたのは由良にカッターナイフを突きつけた一生だった。
怖れる充に由良は「この人、殺していい?」と聞く。
そして由良は彼を海の中に引きずり込むのだ。
驚きの展開、であり胸のすく顛末でもある。
『ポーの一族』で少年であるエドガーが触れるだけで大人たちを殺してきた、その作者の醍醐味だ。
先日記事にした『ハルカの彼方』のハルカも思い出す。
本作もまた萩尾望都の生涯のテーマである「親」本作では特に「母親」との確執を描いたものだった。
その「母」はとうにいない、というか由良にとって記憶の中にまったくいない存在でしかない。
その母の声とも思われた
コロセ
という言葉が成長するにつれ次第に遠くなっていく。
由良にとってその声が聞こえなくなるのはさみしいことだった。
ナニモノダ
ワタシハ
由良は人間でもいたい、と願う。
これも『ハルカと彼方』を思わせる言葉だ。
あの物語は本作とつながっているのだろう。
これまで有名な『寄生獣』がどうしても読めなかったのだけど本作『由良の門を』を読んでやはり読まねばならないのかと考えている。